この原稿を書いているあいだ、私の頭の中には、身のまわりの友人や学生、研究仲間たちの顔が思い浮かんでいた。それから、「言語って、なんだか面白そうだな」と感じている方々に、どんな話なら楽しんでもらえるだろうか─そんなことも考えていた。私はこれまで、言語に関する研究や開発に、プログラミングという手法を用いて取り組んできた。本書では、そうした自分ならではの視点から、少しマニアックな言語の話を、できるだけ親しみやすいかたちでご紹介できればと思う。もちろん、プログラミングの知識がなくてもまったく問題ない。取り上げる話題は多岐にわたる。まず聞き間違えにまつわる私の体験をひとつ紹介する。そこには音の聞き取り、意味や音のカテゴリーの重なりといった、言語に関わるテーマが潜んでいる。つぎに、タヌキやムジナといった動物の名前や某魔法学校の施設の話題から、言葉と法律の関係を扱う。続いてホーミーと呼ばれる歌唱法に触れつつ、音の知覚やその可視化について触れる。中盤では聞き間違えの謎に迫り、後半ではカードゲームに関する文の構造や多義性といった話題を通して、言語のあいまいさや設計について考えていく。そして最後に、AIをはじめとする計算機との関わりに話題を広げていく。(まえがきより)