旧制広島二中の3年生時、学徒勤労動員先の工場があった南観音町で原爆に遭った著者。爆心地から3.5キロほど離れていたこともあり、幸いにも無傷で済んだ。
当初、何が起きたのか分からなかったが、一歩、工場の門を出て、初めて街に大きな惨禍が起きたことを知る。この世のものと思えない〝地獄絵図〟のような街の惨状、大火傷・大怪我を負った幽霊のような人々──。無傷なのに助けを懇願する人たちの手を振り切り、ひたすら走り続けた過去に後々、苦悩するようになる。
一方で、著者自身も原爆で身内10人を失う悲劇に見舞われた。
戦後、原爆のことを一切忘れようと仕事やボランティアに没頭し、被爆証言をかたくなに断ってきた著者が80歳を過ぎ、ようやく被爆証言を行うようになるまでの心の葛藤と、〝語り部〟に生きがいを見出すまでを描いた一冊。
本書の注目ポイントは以下の通り。
①今は存在しないかつての町など、戦前・戦中の広島市の様子を紹介。
②カラーで見やすい原爆投下時の広島市の地図、著者の原爆投下時の逃避ルート図。奇跡的に消失を免れた幼少期の写真の数々。
③「学徒勤労動員」「建物強制疎開」などを詳細に解説。当時の中学生たちの生活を深く理解することができる。
特に③の「建物強制疎開」(建物疎開)については、原爆投下時、広島市で大規模な作業が行われており、それに動員された多くの中学生や女学生などが命を落とした。
当時広島二中の1年生だった著者の弟も、建物疎開作業中に被爆して亡くなっており、先生・学友の皆が命を落とす悲劇は後に広島テレビ制作のドキュメンタリー番組『碑(いしぶみ)』(全国ネット放送)、ポプラ社刊『いしぶみ─広島二中一年生全滅の記録』で大きな反響を呼んだ。犠牲者の一人を身内に持つ著者が克明に語るその時の様子は、ぜひ読んでもらいたい注目ポイント。