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１９６２年秋、フルシチョフ首相率いるソ連は、キューバカストロ首相と謀り、キューバにソ連ミサイル基地を建設し、ミサイルを運び込んだ。冷戦下、大国の一方のソ連がアメリカの喉元に核の刃を突きつけたのだ。この情報に接した米国ケネディ大統領は、核戦争突入を意味する、キューバ侵攻、全面空爆を含む態度決定を迫られた。１３日間に及ぶ政府高官、軍、CIAの秘密討議の結果、キューバ海上封鎖の道がえらばれ、さらにソ連と米国の話し合いによって、ソ連はミサイルを撤去、第三次世界大戦の危機は回避された。世界を震撼させたこのキューバ危機の1年後、ケネディは何者かに暗殺される。ところが、彼の執務室、閣議室にはケネディ自らの手で（おそらく自伝執筆のため）テープが仕掛けられていた。暗殺後発見されたこの録音によって、生々しい討議の内容、弟ロバート・ケネディはじめ高官たちの回顧談の嘘が明らかになった。本書は、国際政治学、近代史上有名なこのケネディテープの分析をもとに、MAS技法を駆使して、秘密討議がどのように収斂していったかを明らかにすると同時に、それにとどまらず、秘密討議メンバーの、性格を変え、また出席頻度をかえたり、最新シミュレーションによって、「もし○○が××だったら」という「歴史のIF」に挑戦する。５０年前の、核戦争の回避が、幾多の偶然による幸運なものであった事を本書は、簡潔に明らかにする。
MASシミュレーションを歴史、近代史に適応した興味尽きない1冊。

目次


序章
キューバ危機を新視点から捉え直す
新しい事実と新しい方法を前にした挑戦
1 キューバ危機を捉え直す 008
2 危機における「決定の本質」を捉え直す 012
3 古くて新しいモデル 016
●1 討議への注目 016
●2 認知構造の析出と分析 017
●3 マルチエージェント・シミュレーション 019
4 本書の構成 020


第1章
キューバ危機とホワイトハウス
キューバで何が起こり，米政府内部でどのような議論が行われたのか?
1 「キューバ危機の13日間」概説 023
2 ExCommの「6日間」 030


第2章
神話と現実
キューバ危機はどのように描かれてきたのか，何が問題なのか?
1 歪められてきたキューバ危機の本質−歴史的アプローチ− 041
●1 伝統主義 042
●2 修正主義 043
2 還元主義の限界と「集団思考」−理論的アプローチ− 045
●1 『決定の本質』再考 045
●2 政策決定における心理要因と還元主義の限界 050
●3 「集団思考」を超えて 053


第3章
コンピュータのなかのホワイトハウス
参加者と会議をどのようにモデル化するのか?
1 討議のシミュレーション：社会心理学の視点から 059
2 EXCOMMモデルの構造：討論者と認知構造 064
●1 討論者とその認知 064
●2 認知構造の構成 068
●3 認知構造と選択肢の支持 077
3 EXCOMMモデルのプロセス：討議と変化 078
●1 討議と認知構造 078
●2 シミュレーションの流れとルール 080


第4章
ホワイトハウスの1週間
シミュレーションは何を教えてくれるのか?
1 仮想EXCOMMの「6日間」 087
2 シミュレーションの条件の操作 095
●1 討論者の感度の変化 096
●2 討論者の感度の差別化 097
●3 討論者の認知構造の変化 099
●4 外部からの情報の投入 101
●5 討論者の影響水準の差別化 104
3 コンピュータのなかのEXCOMM，歴史のなかのExComm 107


第5章
コンピュータのなかの一つの歴史
協議はどのようにされ，意見はどのように収斂したのか?
1 ディスカッションの実態 111
2 全員が一致した海上封鎖 115
3 3分の2多数を獲得した侵攻案 125
4 実現しなかった歴史と一つの仮説 132


第6章
可能性・蓋然性・必然性
「歴史のイフ」を問う意義はどこにあるのか?
1 集団的決定は誰のものか 139
2 反実仮想いろいろ 145
●1 アチソン皆勤 145
●2 全員皆勤 146
●3 マクナマラ交代 148
●4 アチソン交代 150


終章
マルチエージェント・シミュレーションの可能性
新しいパラダイムを求めて
1 新しいアプローチから見えてきたキューバ危機 153
2 高まった分析の自由度 156
3 さらなる活用をめざして 157


参考文献　161
索引 167

デザイン　米谷　豪
組　　版　岩谷　徹

著：阪本　拓人
１９７５年生まれ。現在、東京大学大学院総合文化研究科助教

著：保城　広至
１９７５年生まれ。現在　東京大学社会科学研究所准教授

著：山影　進
１９４９年生まれ。現在　東京大学大学院総合文化研究科教授。『コンピュータのなかの人工社会』（服部正太と共著、共立出版、２００２年）、『人口社会構築指南』（書籍工房早山、２００７年）『新しいASAN』(編著、日本貿易振興会アジア経済研究所、２０１１年）など。