出版書誌データベース

　これまで熊本大学大学院消化器外科学教室で経験した多くの症例の中から55症例を厳選し臓器別にまとめた記録。この中には、これまで報告がない極めて稀な病体、高度進行がん、究明が困難な重度炎症、重度合併症等の症例が含まれている。ガイドラインの範疇を越えエビデンスが少ない病状に対し、外科医が煩悶し、カンファレンスを通して治療方針を熟慮し、最善の治療を積み重ねていく過程とその結果が示されている。困難な病魔に遭遇し治療方針に悩む外科医にとって、この記録が治療方針を決めるうえで一助となり、最終的に患者さんの究明に寄与できると考える。
　写真・図を多用し、「勝利のポイント」で、なぜそう判断し、その治療を選択したかを、「考察」で結果と改善点を示す。

１　食道
根治的化学放射線療法後の致死的食道気管瘻，喉頭気管壊死に対する手術
食道癌術後の原因不明の呼吸不全
喉頭温存を強く希望する高位頚部食道癌症例に対するサルベージ手術
CDDP３倍量投与からの救命
CRTで治癒した進行頚部食道癌の二次癌に対して行った食道切除後に発生した
難治性吻合不全
食道切除術中の致死的大動脈損傷に対するリカバリーショット
食道切除術中に3回心停止した高度心不全
食道癌術後の再建胃管壊死
食道癌術後の気管膜様部損傷に対する緊急手術
両側開胸と開腹にて切除し得た胸腹部巨大脂肪肉腫
食道切除術後難治性肺瘻に対する胸膜癒着療法に起因する胃管狭窄

２　胃
Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomachの3家系
上腸間膜動脈を温存し切除可能であった巨大GIST
妊娠中に発見された骨髄癌腫症を伴う進行胃癌
集学的治療により長期生存を得た進行食道胃接合部癌
トラスツズマブ併用化学療法によりpCRとなった腹膜播種を伴うHER2陽性進行胃癌に対するconversion surgery
後腹膜に発生し胸腹部大動脈合併切除を要したmalignant gastrointestinal neuroectodermal tumor
Pre-Linitis plastica型胃癌
大彎浸潤胃癌に対する脾温存脾門リンパ節郭清：すだれ郭清
胃癌の筋転移
Virchow転移を含む高度リンパ節転移を伴った早期胃癌
食道空腸吻合不全に対するインナードレナージ
食道切除術後，経腸栄養開始後の腸管気腫症

３　大腸
遠隔転移巣切除とBmab＋CAPOX 療法を繰り返し５年生存を得たS状結腸癌
術前に血管塞栓を行い骨盤内臓全摘を施行した骨盤内巨大脂肪肉腫
CRT後の局所再発病変切除後に発症した難治性小腸皮膚瘻
高度亀背を伴う直腸癌に対する傍仙骨アプローチ切除
骨盤内リンパ節再発手術中の大量出血
長期生存が得られた大腸癌肝転移（H3）
癒着剥離を伴う小腸切除後に発症し治療に難渋した汎発性腹膜炎
大腸癌手術における腹腔鏡ポート挿入時の外腸骨動脈損傷
巨大後腹膜腫瘍
上行結腸原発脱分化型脂肪肉腫

４　肝
RFA後7年目に発症した遅発性横隔膜ヘルニア
急性膵炎と十二指腸閉塞を併発した膵十二指腸動脈の分節性動脈中隔炎（SAM）
集学的治療にて臨床的寛解を得た腹膜播種を伴う手術不能肝細胞癌
拡大右肝切除後の良性胆管狭窄に対する超音波気管支内視鏡ガイド下胆道内瘻化
腹腔鏡下ラジオ波凝固療法後の食道穿孔
虚血性心疾患を合併したHCC 患者に対するIABP 併用肝切除
術前診断が困難であった肝門部グリソン鞘内神経内分泌腫瘍
長期生存を得た巨大肝未分化肉腫
集学的治療により根治を得た下大静脈腫瘍栓を伴う肝細胞癌
集学的治療にて長期生存を得た脈管侵襲・多発肺転移を伴う肝細胞癌
集学的治療により12年の無再発長期生存を得た混合型肝癌
C型肝炎に合併した成人肝芽腫切除後の肝細胞癌再発

５　胆　膵
ジクロロメタン曝露が原因と考えられた肝内・肝外重複胆管癌
複数の他臓器浸潤を伴う局所進行切除不能膵癌に対する2ndレジメンからのsalvage surgery（DPCAR，肝外側区域切除術，残胃全摘術）
胆嚢癌に対する肝S4a/5切除＋胆道再建後の十二指腸再発に対するSSPPD
二穴胆管空腸吻合を伴う腹腔鏡下亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行った膵管内乳頭粘液性腫瘍（IPMN）
胆管NETに対する肝左3区域切除後の離断型胆汁漏と肝不全
術後離断型胆汁漏に対する抗菌剤治療中に発症した無顆粒球症
膵頭十二指腸切除術後に出現した門脈閉塞による難治性腹水
膵頭十二指腸切除後の膵空腸吻合部の破綻に対する膵管外瘻化後の瘻孔空腸吻合
拡大胆嚢摘出術後の胆管空腸吻合閉塞に対する磁石圧迫吻合部狭窄解除術
バイポーラ熱損傷による遅発性下大静脈穿孔

６　医療安全

監：馬場 秀夫
熊本大学病院　病院長
熊本大学大学院　消化器外科学　教授
熊本大学医学部卒業。九州大学医学部第二外科入局。アメリカテキサス大学留学、国立病院九州がんセンター消化器外科医長、九州大学大学院助教授、熊本大学大学院消化器外科学教授、副病院長、副研究部長を経て2021年から現職。副学長を兼務する。