天文五年(一五三六)還俗した今川義元は軍師雪斎と天下をめざし起(た)った。それから四半世紀後、織田信長は桶狭間において駿遠参三州の国守であった義元を倒す。駿河、三河、尾張、美濃を舞台に織りなされた歴史を活写する渾身の処女作。
信秀は小枝を拾うと地面に字を書いた。
不羈(ふき)
「これは馬に付ける革と書いてな。これがみな不(あらず)で、くつわのない馬じゃ。馬が生まれたときのままでおる、本性の姿よ」……「人も同じことよ。主(あるじ)のない者など天下のどこにもおらん。わしやおまえとて同じことよ。されど、だからこそ人は不羈の性根をなくしてはいかんのだ」(本書より)