出版書誌データベース

　本書は、業種間・産業間および企業間の比較の視点に基づいて、第２次大戦後のドイツにおける企業間関係について、その基本的特徴とともに構造と機能を明らかにしたものである。
　本書の研究は次の点に特徴を持つ。第１に、三大銀行や主要産業の代表的企業をめぐる役員兼任および顧問会制度による企業間の人的結合の構造、そのような結びつきによる競争関係にある企業間や企業グループ間の情報の交流・共有、利害やコンフリクトの調整、そこでの銀行の果たす役割などの解明をとおして、ドイツに特有の企業間関係のシステムとその機能の把握を行っているという点である。第２に、ドイツ資本主義の協調的特質、価格競争よりも品質競争に重点を置いた同国企業の経営展開、ドイツ企業が得意とする機能面での品質重視のものづくりとそれによる同国およびヨーロッパの市場への適応などにみられる企業の行動様式をめぐって、企業間関係のシステムの面からその基盤を解明することによってドイツ企業とその経営のトータルな分析・把握を試みているという点である。第３に、このような企業間関係の機能の解明に不可欠となる、ドイツの大銀行や主要産業の代表的企業の文書館に所蔵されている多くの一次資料を駆使して分析を行っている点である。

　序章　ドイツ企業間関係研究へのアプローチ
　　第１節　問題意識と分析視点
　　　１　本書の問題意識
　　　２　分析視点
　　第２節　研究の課題
　　　１　企業グループ体制に関する研究課題
　　　２　企業間の人的結合に関する研究課題
　　第３節　本書のオリジナリティと意義
　　第４節　研究の方法
　　　１　企業間関係に基づく産業集中体制と企業経営のトータルな分析枠組み
　　　２　企業間のネットワーク分析の方法
第１部　戦後の企業間関係と産業集中体制の新しい展開
　第１章　企業グループ体制の特徴と意義
　　第１節　大企業の解体とその影響
　　　１　大企業の解体政策の展開
　　　２　大企業の解体・再編の意義
　　第２節　大企業の再結合と企業グループ体制の展開
　　　１　大企業の再結合の背景
　　　２　大企業の再結合と事業領域における分業の展開
　　　３　企業グループ体制の新展開の意義
　　第３節　第３次企業集中運動と企業グループ体制の再編
　　　１　第３次企業集中運動の背景
　　　２　第３次企業集中運動の展開とその特徴
　　　３　主要産業部門における企業集中の展開
　　　４　企業グループ体制の再編の意義
　第２章　産業・銀行間関係に基づく産業システム
　　第１節　ユニバーサル・バンク制度と産業・銀行間関係をめぐる問題
　　第２節　産業・銀行間関係に基づく産業システムの展開
　　　１　監査役会の機能をめぐる問題
　　　２　銀行の信用業務、証券業務と産業企業への影響
　　　３　銀行による株式所有、寄託株式制度と産業企業への影響
　　　４　銀行による役員派遣と産業企業への影響
　　　５　顧問会制度による産業・銀行間、産業企業間の情報共有システム
　　第３節　産業・銀行間関係と企業統治
　　　１　産業・銀行間関係に基づく協調的企業統治システム
　　　２　経堂決定制度と産業・銀行間の協調的企業統治システム
　　第４節　産業・銀行間関係の新しい展開とその意義
第２部　企業間の役員兼任の構造と機能
　第３章　銀行の役員の直接兼任構造
　　第１節　ドイツ銀行役員の直接兼任構造
　　　１　他社の監査役会における直接兼任構造
　　　２　他社の取締役会における直接兼任構造
　　第２節　ドレスナー銀行役員の直接兼任構造
　　　１　他社の監査役会における直接兼任構造
　　　２　他社の取締役会における直接兼任構造
　　第３節　コメルツ銀行役員の直接兼任構造
　　　１　他社の監査役会における直接兼任構造
　　　２　他社の取締役会における直接兼任構造
　第４章　産業企業の役員の直接兼任構造
　　　　―鉄鋼業、化学産業、電機産業、自動車産業の事例―
　　第１節　鉄鋼業企業の役員の直接兼任構造
　　　１　アウグスト・ティッセン役員の直接兼任構造
　　　２　フリードリヒ・クルップ製鉄役員の直接兼任構造
　　　３　マンネスマン役員の直接兼任構造
　　　４　ヘッシュ役員の直接兼任構造
　　　５　ライン製鋼役員の直接兼任構造
　　　６　ザルツギッター役員の直接兼任構造
　　　７　クレックナー役員の直接兼任構造
　　　８　グーテホフヌング役員の直接兼任構造
　　第２節　化学産業企業の役員の直接兼任構造
　　　１　BASF役員の直接兼任構造
　　　２　バイエル役員の直接兼任構造
　　　３　ヘキスト役員の直接兼任構造
　　第３節　電機産業企業の役員の直接兼任構造
　　　１　ジーメンス役員の直接兼任構造
　　　２　AEG役員の直接兼任構造
　　第４節　自動車産業企業の役員の直接兼任構造
　　　１　ダイムラー・ベンツ役員の直接兼任構造
　　　２　フォルクスワーゲン役員の直接兼任構造
　　　３　BMW役員の直接兼任構造
　第５章　銀行間および産業企業間の役員の間接兼任構造
　　第１節　銀行間の間接兼任構造
　　　１　３大銀行間の間接兼任構造
　　　２　ドイツ銀行とドレスナー銀行の間の間接兼任構造
　　　３　ドイツ銀行とコメルツ銀行の間の間接兼任構造
　　　４　ドレスナー銀行とコメルツ銀行の間の間接兼任構造
　　第２節　鉄鋼業企業間の間接兼任構造
　　　　　　　―主要企業８社の間の間接兼任―
　　第３節　化学産業企業間の間接兼任構造
　　　　　　　―BASF、バイエル、ヘキストの間の間接兼任―
　　　１　化学企業３社の間の間接兼任構造
　　　２　BASFとバイエルの間の間接兼任構造
　　　３　BASFとヘキストの間の間接兼任構造
　　　４　バイエルとヘキストの間の間接兼任構造
　　第４節　電機産業企業間の間接兼任構造
　　　　　　　―ジーメンスとAEGの間の間接兼任―
　　第５節　自動車産業企業間の間接兼任構造
　　　　　　　―ダイムラー・ベンツ、フォルクスワーゲン、BMWの間の間接兼任―
　第６章　企業間の役員兼任の機能
　　　　―直接兼任の機能をめぐって―
　　第１節　代表的企業における監査役会の会議の内容
　　第２節　産業企業の監査役人事にみる役員兼任の機能
　　　１　監査役人事にみる銀行の役員兼任の機能
　　　２　監査役人事にみる産業企業の役員兼任の機能
　　第３節　銀行の監査役人事にみる役員兼任の機能
　　第４節　兼任監査役による企業間の調整的機能
第３部　企業間の役員兼任による人的ネットワークの構造
　第７章　３大銀行の監査役兼任ネットワークの構造
　　第１節　ドイツ銀行の監査役兼任ネットワーク
　　　１　監査役兼任ネットワーク
　　　２　兼任監査役のクリーク
　　第２節　ドレスナー銀行の監査役兼任ネットワーク
　　　１　監査役兼任ネットワーク
　　　２　兼任監査役のクリーク
　　第３節　コメルツ銀行の監査役兼任ネットワーク
　　　１　監査役兼任ネットワーク
　　　２　兼任監査役のクリーク
　　第４節　監査役兼任ネットワークの３大銀行間の比較
　第８章　産業企業の監査役兼任ネットワークの構造
　　　　―鉄鋼業、化学産業、電機産業、自動車産業の事例―
　　第１節　鉄鋼業企業の監査役兼任ネットワークの構造
　　　１　アウグスト・ティッセンの監査役兼任ネットワークの構造
　　　２　フリードリヒ・クルップの監査役兼任ネットワークの構造
　　　３　マンネスマンの監査役兼任ネットワークの構造
　　　４　ヘッシュの監査役兼任ネットワークの構造
　　　５　ライン製鋼の監査役兼任ネットワークの構造
　　　６　ザルツギッターの監査役兼任ネットワークの構造
　　　７　クレックナーの監査役兼任ネットワークの構造
　　　８　グーテホフヌングの監査役兼任ネットワークの構造
　　　９　監査役兼任ネットワークの鉄鋼企業８社間の比較
　　第２節　化学産業企業の監査役兼任ネットワークの構造
　　　１　BASFの監査役兼任ネットワークの構造
　　　２　バイエルの監査役兼任ネットワークの構造
　　　３　ヘキストの監査役兼任ネットワークの構造
　　　４　監査役兼任ネットワークの化学企業３社間の比較
　　第３節　電機産業企業の監査役兼任ネットワークの構造
　　　１　ジーメンスの監査役兼任ネットワークの構造
　　　２　AEGの監査役兼任ネットワークの構造
　　　３　監査役兼任ネット枠の電気企業２社間の比較
　　第４節　自動車産業企業の監査役兼任ネットワークの構造
　　　１　ダイムラー・ベンツの監査役兼任ネットワークの構造
　　　２　フォルクスワーゲンの監査役兼任ネットワークの構造
　　　３　BMWの監査役兼任ネットワークの構造
　　　４　監査役兼任ネット和アークの自動車企業３社間の比較
　第９章　監査役兼任ネットワークの業種間・産業間および企業間の比較
　　　　―銀行業、鉄鋼業、化学産業、電機産業、自動車産業の比較―
　　第１節　監査役兼任ネットワークの凝集性の比較
　　　１　監査役兼任ネットワークの凝集性の業種間・産業間比較
　　　２　監査役兼任ネットワークの凝集性の企業間比較
　　第２節　監査役兼任ネットワークにおける中心性の比較
　　　１　監査役兼任ネットワークにおける中心性の業種間・産業間比較
　　　２　監査役兼任ネットワークにおける中心性の企業間比較
　補論１　顧問会制度による企業間の人的結合の構造
　　第１節　銀行の顧問会制度による企業間の人的結合の構造
　　　１　銀行の本店顧問会制度による企業間の人的結合の構造
　　　２　銀行の地域顧問会制度による企業間の人的結合の構造
　　第２節　産業企業の顧問会制度による企業間の人的結合の構造
　補論２　顧問会制度による企業間の人的結合の機能
　　第１節　銀行の顧問会制度の基本的性格と役割
　　第２節　銀行の本店顧問会制度による企業間の人的結合の機能
　　　　　　　―ドレスナー銀行の事例―
　　　１　本店顧問会の規約
　　　２　本店顧問会の会議の開催状況
　　　３　本店顧問会の会議の参加メンバー
　　　４　本店顧問会の会議の内容とその特徴
　　　５　本店顧問会の意義
　　第３節　銀行の地域顧問会制度による企業間の人的結合の機能
　　　１　ドレスナー銀行の地域顧問会とその機能
　　　２　コメルツ銀行の地域顧問会とその機能
　　　３　地域顧問会の意義
　結章　研究の総括と本書のインプリケーション
　　第１節　研究の総括
　　　１　企業グループ体制の新しい展開とその特徴
　　　２　産業・銀行間関係に基づく産業システムの新しい展開とその特徴
　　　３　銀行の役員の直接兼任構造とその特徴
　　　４　産業企業の役員の直接兼任構造とその特徴
　　　５　銀行間および産業企業間の役員の間接兼任構造とその特徴
　　　６　企業間の役員兼任の機能とその特徴
　　　７　企業間の役員兼任による人的ネットワークとその特徴
　　　８　顧問会制度による企業間の人的結合の構造とその特徴
　　　９　顧問会制度による企業間の人的結合の構造とその特徴
　　第２節　本書のインプリケーション
　　　１　産業・銀行間の兼任の方法と重複度に関するインプリケーション
　　　２　銀行間で成立する役員の間接兼任構造に関するインプリケーション
　　　３　間接兼任による人的結合と顧問会制度による人的結合の関連に関するインプリケーション
　　　４　企業間の役員兼任の機能に関するインプリケーション
　　　５　監査役兼任のネットワーク分析によるインプリケーション
　　　６　産業・銀行間関係と「金融資本」に関するインプリケーション
　　　　　　―「会社支配」と「会社統治」の問題をめぐって―
　　第３節　残された問題と研究の展望

著：山崎敏夫
山崎敏夫（やまざきとしお）
1962年　大阪府に生まれる
1985年　同志社大学商学部卒業
1990年　同志社大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得
1989年　高知大学人文学部に勤務、助手、専任講師、助教授をへて
1994年　立命館大学経営学部助教授
現　在　立命館大学経営学部教授　博士（経営学）