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あるがままの世界

完全版

著:宇佐 晋一
著:木下 勇作

紙版

内容紹介

森田療法は、今から100年ほど前に東京慈恵会医科大学精神医学講座教授、森田正馬により生み出された、「あるがまま」に生きることによって、恐怖症や強迫神経症等が治癒していくという治療法です。本書は、森田療法を専門に扱う元・三聖病院二代目院長、宇佐晋一氏の講演、講話を中心に、元・日経新聞記者、木下勇作氏によってまとめられた既刊『あるがままの世界』『続あるがままの世界』『とらわれからの解脱』を合本した完全版です。


『あるがままの世界 ─完全版─』は、過去に上梓された森田療法本の三冊合本、それぞれの時代背景も異なることから、校閲作業は時制や表現の見直しも含めて、なかなかの骨折りだった。森田療法の対象となる病態・森田神経質の症状は、人間の心が絶えず変化する無常の状態であるため、そこにこだわりを持ってしまうと、全治から遠のいてしまう。症状に知的やりくり・計らいをして逆に悪化させるのなら、それをやめて気持ちを大きく持てばいいと思われがちだが、それも誤りである。なぜなら、その考えそのものが新たな知的なやりくりとなり、神経質のとらわれが続いて全治につながらないからだ。本当の全治は、骨折りという行動によって、神経質を意識の外に追いやるという言葉に頼らない方法をとらねばならない。本書では、その一つの真実を角度を変えて何度も説明するため、一度通読するだけでも大きな理解が得られるのが特色だ。さて自分は、宇佐玄雄先生のはるか歳の離れた後輩でもあり、しかも同じ東洋哲学を専攻したにもかかわらず、宇佐先生の仏教より、道教(道家思想)の方に興味を持ってしまい、そちらをもっぱら研究した。しかしそれでも、禅などの仏教と深くかかわる森田療法の理解は非常に早かったかもしれない。というのも、森田療法の知的やりくり・計らいが逆に完治を遅らせるという論法には、全く違和感を覚えることなく、むしろ道家的であるとさえ感じたためだ。森田療法の全治におけるこの逆説に、自分は一瞬にして、荘子の「万物斉同論」を想起させていた。荘子は、「道」の下においては、人間が日々論じ合っているものは、その全てが同一なものに過ぎないと断じ、「道」に近づくには、そういった概念・分別、言葉による議論は意味を持たず、超越していかねばならないと説いているのだが、これはまさに森田療法に通じるところではないか。そもそも臨済宗など禅宗は中国仏教の要素を多分に取り込んで形成されている。そしてその中国仏教はインド仏教に儒教や道教を取り込みながら成立した経緯がある。中国仏教を取り込んだ禅宗が荘子の万物斉同論の要素を併せて取り込んだと考えても、何ら不思議ではないし、その禅宗の影響を多大に受ける森田療法が荘子の「万物斉同論」のように思えてしまうのは、もはや偶然ではなかろう。本書はこれからの世代も読むことを想定し、極力読みやすいよう、校閲に腐心したつもりである。「新たな誤植はないか」などと知的やりくりを働かせず、純なる心で愛読して下されば、無上の喜びである。

校閲:中野龍三

目次

 森田療法、三聖病院での入院治療について
 森田療法と三聖病院 木下勇作
 三聖病院での療養の例 その1
 症状 確認強迫、人としゃべる時に顔がこわばる M・Tさん(二十二歳)
 宇佐晋一の美術講座
 宇佐晋一講話集

第1章 「しゃべる人は治りません」
 森田療法から見た精神分析の百年
 モノを言わない体験
 全治は否応なしに成り立つ
 生活を離れて全治なし
 咄喝そのまま前進
 日常生活に徹するところに光
 非合理なものへの洞察
 ひっかかったまま前進
 至道無難 唯嫌揀択 言語道断 非去来今
 行きつ戻りつの前進
 聴聞記 木下勇作
 宇佐晋一講話集

第2章 「心に用事なし」
 心・この決められないもの
 心に拠りどころなし ―森田療法三十年―
 心は心の勝手たるべし
 心にお手本なし
 心の放ったらかし
 心に準備なし その1
 心に準備なし その2
 病感は自分の心を問題にするところより生ずる
 最大限の創意工夫で前進、即ち自由
 全治の即時性 造作のいらない『心の離れ技』
 三聖病院での療養の例 その2
 不眠と焦燥感 細川行信
 苦悩もまた善知識 細川行信
 心は仏の世界 宇佐晋一
 宇佐晋一講話集

第3章 「無条件幸福」
 治ればもと以上 ―とらわれからの脱皮の実際
 わかって治ることはない
 「わかる」と「治る」は別
 「あるがまま」が悟り
 使い切れない一生の宝「そのまま」
 心に関係なく手を出せば直ちに全治
 全治の全治知らずこそ本物
 宇佐晋一エッセイ集
 「露堂々」
 ・気づきとくらまし
 ・幽霊の復権
 ・フランス人と庄松
 ・西田幾多郎と純な心
 ・鈴木大拙と精神療法
 ・森本省念と中心のない円
 ・久松真一と「きめられないもの」
 ・林恵鏡の芳流
 ・植田寿蔵とはげ頭の美
 宇佐晋一講話集

第4章 「わからずにいる」
 迷いの科学と科学の迷い
 森田療法と美の問題
 禅と医療
 不加紅粉自風流―先代院長を語る―
 「純なる心」即「あるがまま」
 驀直前進莫回顧
 汚れたら汚れたままが全治の姿
 東京慈恵会医科大学森田療法センターのご案内

著者略歴

著:宇佐 晋一
日本の精神科医、医学博士。森田療法家である。 著書に『あるがままの世界 -仏教と森田療法-』(東方出版)など。
著:木下 勇作
昭和19年(1944)岡山県邑久町生まれ。現在、日本文芸家協会、日本ペンクラブ、日本宗教学会に所属し、文芸、宗教・哲学、思想、歴史、教育、経済など幅広い分野に取り組む。著書多数。

ISBN:9784798061146
出版社:秀和システム
判型:A5
ページ数:384ページ
定価:4500円(本体)
発行年月日:2020年03月
発売日:2020年03月02日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:MJ