福島第一原発事故から二年弱が経過し、巷間にはあたかも「放射能の危機は去った」という空気が瀰漫しているかのように見える。しかし、われわれの眼前には依然として、人類史上類を見ない規模の「被曝社会」が出現している。市民の生命と財産は保護されず、容易には見えない仕方で無政府状態が進行している。これはかつて怖れられた「夜警国家」ですらない。もっと別の仕方で、一般的な人権の剥奪が進行している事態である。
今次の放射能拡散事件は、この国の「科学者」に内省と転換を迫る出来事となった。巨費を投じた「科学」が、この国の自然と社会と人間生活に、算定できないほどの災厄をもたらしたからである。そして、この「科学」の失墜にともなう学術の変動は、自然科学に限らず人文・社会諸科学にも及び、あらゆる「学」が再編を促されているといえる。
再編された諸学の使命は二つある。第一に、放射能拡散事件に至る過程と問題の構造を分析し、誰がこの災厄をもたらしたかを明らかにすること。第二に、放射線防護の理論的基礎となる自然諸科学のみならず、科学観の革新にかかわる人文・社会諸科学を含め、「放射能拡散後の社会」が要請する学術内容を用意することである。本年報の編者である「現代理論研究会」は、この諸学の再編に参与することを目的に設立されたものである。
「われわれは被曝社会に生きている」と明言することすら、「復興」の名のもとに批判される夜警的現状のなかで、しかしわれわれは、心の奥底におおきな絶望を抱えつつも、他方でこれまでにないおおきな自由を感じてもいるのではないか。それは、屈辱と悲しみのなかで発見されたより深い次元の「自由」であり、それを知った者は、昨日とは違った仕方で考え、著すだろう。
この年報が企図するのは、そうした自由な思考の到来を期して、その表現の舞台を用意し、そこから編みなおされる新たな世界観を読者とともに鍛錬していくことである。(文責:現代理論研究会)