日本語版へのはしがき
序 論
アイデンティティに根差した飲み物の地理学的研究
日本に独特なもの
分類できない物・酒/日本がわが物にした物/特定の産地の分布/現代への適合の難しさ
本書の構成
第Ⅰ部 酒を探す
第1章 酒とは何か?
――多義的な語の定義と分類――
酒ということばは何を意味するのか? 語彙の難しさ
ことばの由来
日本の伝統的アルコール飲料における酒の位置付け
「酒」をより広いカテゴリーに位置付けることは可能か?
米のビール?/米のワイン?/穀物のワイン?
第2章 酒 造 り
アルコール発酵の論点と原理
生命の現れ/果物の発酵/穀物の発酵
複雑な製造方法
四つの原料/工程の独創性――並行複発酵
技術,品質,制約の発展
小 括 穀物由来の「ワイン」にどのような地理学的結論が導かれたか
明晰な命名がたいせつである/製法は複雑だが立地の制約は僅かである/海外での普及が少ない,その原因は文化地理学の立場から探求されるべきである
第Ⅱ部 酒のある場所
第3章 アジアの中で見る酒
――日本で米ワインが続いているふしぎ――
米ワイン
――東アジアの分布――
稲作中心の生活様式の跡は/最初に稲作が伝来した地域に見つかる/2タイプに分かれたアジアでの麹の伝播
古来の文明の飲み物
麹の起源にいて――中国での融合/神との密接な関係/黄金期から衰退まで
米ワインにおける酒の独特な位置
消費量/米ワイン究極の成功例
第4章 日本の中で見る酒
――土地と心象に根差した飲み物――
神々の飲み物
神道――日本文化の支柱/酒が象徴するもの――生命の隠喩/酒造り――神聖な仕事
創造主としての天皇と稲田
神話の世界――農地と奥山/酒と神性の関係における土地の重要性/米と酒の心象
儀式化された飲酒の空間と時間
通過儀礼/祭 礼/宮中祭祀――人間の時間と自然の時間
第5章 食卓の上で見る酒
――中心となる場――
酒はどのように飲まれるか?
燗と冷や/燗のための器/食べながら飲む,飲みながら食べる?
社会的な飲み物の空間と時間
「ひとりで飲む酒はない」/飲む場所/飲む時
酒と他の飲み物
酒と茶――対極にあるもの/酒が他のアルコール飲料にもたらす影響
小 括 日本に独特なもの
歴史の面および地理の面の理由/文化面の選択肢/神道は主たる原因か?
第Ⅲ部 酒造りと飲酒の歴史
第6章 起源から16世紀半ばまで
――古都周辺の良質な生産地域の発生――
日本におけるアルコール飲料の起源
論争中の問題/さまざまな起源の交わるところに誕生した日本の米ワイン/二度の伝来?
古 代
――宮中と神社を中心とした最初の産地の発生――
中国の体制を日本の実情に適合させる/宮中の酒,上質な米ワインを中心とした儀式と歓楽/農村の酒,粗野な米ワイン/商いはなかったか?
中 世
――全国への技術伝播,そして良質な酒造りの中心地としての畿内の再認識――
荘園における酒の伝播/酒の専業的発展の基礎 ―― 貨幣経済のはじまりと都市経済網の出現/寺院発祥の新たな技術革新の発展
第7章 16世紀半ばから明治時代まで
――江戸へ向かう大規模商業――
新しい地理的モデル
鎖国と関東における新しい都・江戸の開府/体制の原動力――参勤交代/江戸時代における発展――畿内と関東の相互補完
江戸社会における酒の位置
飲酒習慣の進化/酒――米の価格管理のための巧妙な手段/酒造りの質
生産地域の拡大
下り酒と地元の酒/上方の各地における発展 ―― 海からの誘い/関東における上質な酒造りの失敗
第8章 明治から現代まで
――近代化,産業化と新たな産地の再評価――
明治維新から太平洋戦争まで
――大衆消費に向かって――
国家の決定的な推進力――酒造りの自由の確立と技術革新/飲酒習慣の本質的な変化/産地集中化の始まり
戦争の惨事から新しい産地の再評価へ
あらゆる悪の母胎としての戦争/少数の大酒造業者の下で工業生産される酒/東日本の産地の再評価
小 括 美味しく飲みたいという欲求を満足させる
継承される地理的分布/輸送経路へのアクセス可能性によって決まる産地の境界/再編中の産地
第Ⅳ部 変わる酒・変わらない酒
第9章 消費者の変化と消費の新しい地理学
国民的アルコール飲料の終焉と言えるか
20世紀後半の展開――出発点への回帰/消費される日本酒のタイプの変化――品質を求めて/消費習慣の断絶
消費者の新しい酒の飲み方
―― 一時代の終わりか,それとも新たな始まりか――
酒愛の終焉――満たされない品質への欲求と古ぼけたイメージ/世代と嗜好の変化/希望をもたらす新たな飲酒習慣
飲酒習慣の画一化の背後に,際立つ地域差
全国での飲酒習慣の画一化/古くからの対比――九州とその他の地域/新たな対比――太平洋側の表日本と日本海側の裏日本
第10章 危機に直面した酒業界
戸惑う日本酒業界
生産量の半数を占める12の大酒造会社と,多くの小酒造会社/危機の前兆/適応する納入業者と流通業者
慣習を定め直すことの必要性
経済的な解決策が不十分/前提条件――酒の定義の曖昧さに終わりを告げる/消費者を取り戻す
第11章 新たな挑戦
――品質の決定要因の見直しと国際化への適応――
見直されるべき立法
分かりにくい二重の分類/悪弊と対応策
酒にテロワールは存在するか?
進めている実験/テロワールのある地酒に向けて/保護の手段としての原産地
酒の国際化
輸出量は少ないが増加中/酒は世界を掌握するか?/現在の障壁
小 括 時代遅れの飲み物か?
現代性の新たな局面/レベルの変化への適応が必要である
終 章 日本に独特なものを検討する
説明要因としての地域への定着/酒は日本文化およびその矛盾を明らかにしている/アイデンティティに根差した飲料の地理的分布において,変化しないものを明らかにする固有の軌跡
訳者あとがき
引用文献・参考文献一覧
人名索引
地名索引
事項索引