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現代日本の消費分析

著:宇南山 卓

紙版

内容紹介

家計行動を体系的に理解する



日本の家計はどのように消費を決定しているのか。

本書では、消費税率引上げ、特別定額給付金の消費刺激効果、児童手当給付問題、老後の生活資金の不足問題など、わが国の消費にまつわる多様な現象を「ライフサイクル理論」を用いて一貫した視点から分析している。経済環境の変化がどのように家計行動を変えるのか、そのメカニズムの解明を試みる意欲作。



①「消費のライフサイクル理論」の今日的な意義と目的を、総合的に理解すること。

②ミクロデータを用いて、ライフサイクル理論の家計消費行動における実証分析をまとめること。

③日本の家計消費に関する課題や政策的介入の可能性、将来像についての知見をまとめること。

この3つが本書の大きな目的であり、著者は過去10 年以上に亘って、日本のデータを用いたライフサイクル理論の実証研究を重ねてきた。ライフサイクル理論の実証は、今日の応用計量経済学の中心テーマの一つであり、ミクロ計量分析の理解を深めるうえでも大いに役立つであろう注目の一書。

目次

第Ⅰ部 消費の決定理論

第1章 消費のライフサイクル理論

消費の決定とは/所得と消費:ケインズ型消費関数/ライフサイクル理論の基本モデル/消費の平準化/ライフサイクル理論と恒常所得仮説/コラム1:相対所得仮説/コラム2:指数割引と時間的整合性



第2章 所得の不確実性と消費

所得の不確実性と確実性等価モデル/消費の決定要因としての「情報」/同時点の所得と消費:再考/政策のアナウンスと消費の変化―2014年の消費税率の引上げ―/所得リスクと予備的貯蓄/予備的貯蓄の含意/予備的貯蓄の重要性/コラム3:不確実性と「消費保険」



第3章 異時点間の消費の代替

消費の平準化と実質利子率/CES型の瞬時効用関数と異時点間の代替の弾力性/予期しない実質利子率の変動と消費の反応/実質利子率の影響の発生タイミング/異時点間の代替の弾力性の推計とその課題/補論:CES型の効用関数におけるオイラー方程式の導出



第4章 利子率と日本の消費

日本の異時点間の代替の弾力性(IES)の推計/「大胆な金融政策」と消費/ライフサイクル理論と日本の消費/補論:IESの推計式の導出



第Ⅱ部 ライフサイクル理論の検証と拡張

第5章 ライフサイクル理論の検証

ライフサイクル理論の「検証」/オイラー方程式と消費の変化―ランダムウォーク仮説―/予期された所得の変動と過剰反応テスト/過剰反応テストとデータ/ミクロデータを用いた過剰反応テスト/ミクロデータで観察された過剰反応/家計の非対称性と過剰反応テスト/コラム4:予期されない所得変動の分析



第6章 退職消費パズル

退職消費パズルとは/日本における退職前後の所得と消費/退職消費パズルの発生原因/日本の退職制度と老後の消費/生涯現役社会と老後の生活設計/補論:退職消費パズルとデータ



第7章 過剰反応と流動性制約

流動性制約とは/流動性制約のモデル化―借入制約―/過剰反応と限界消費性向/資産選択と流動性制約/ライフサイクル理論とケインズ型消費関数:再考/コラム5:その日暮らしと貧困



第8章 ライフサイクル理論のフロンティア

理想の過剰反応テスト/自然実験としての公的年金給付/年金給付に対する過剰反応/家計の「合理性」の再検討



第Ⅲ部 現金給付の経済学

第9章 消費刺激の経済学

消費刺激策とライフサイクル理論/消費刺激策のMPC/消費刺激策のターゲット/消費刺激策としての流動性の供給/現金給付と商品券/行動経済学と消費刺激策/コラム6:消費刺激策の有効性をめぐるフロンティア



第10章 児童手当の効果

経常的な所得移転と家計行動/児童手当とは/児童手当に対する過剰反応/児童手当の長期的影響/消費の内訳とラベリング効果/コラム7:リバタリアン・パターナリズム



第Ⅳ部 家計収支の把握

第11章 公的統計における家計収支

統計の体系と家計収支データ/日本の家計収支データ/消費データの乖離とその原因/消費家計収支調査とライフサイクル理論の分析/コラム8:全国家計構造調査と全国消費実態調査



第12章 新しい家計収支データ

家計収支統計の直面する課題/新しい消費統計/家計簿アプリデータとRICHプロジェクト



第Ⅴ部 貯蓄の決定要因

第13章 ミクロとマクロの貯蓄率

ライフサイクル理論と貯蓄の決定/ミクロとマクロの貯蓄率の乖離/家計調査の調査範囲と貯蓄率/貯蓄の概念/家計調査の非標本誤差/貯蓄率のミクロデータに基づく分析に向けて



第14章 人口動態と貯蓄

高齢化と貯蓄/全国消費実態調査によるミクロの貯蓄率データの構築/所得・消費・貯蓄の年齢プロファイル/高齢化の貯蓄率への影響/日本の貯蓄率とライフサイクル理論/コラム9:SNAと世帯調査の水準差:残された謎

著者略歴

著:宇南山 卓
京都大学経済研究所教授。

1974年生まれ。97年、東京大学経済学部卒業。2004年、同大大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。

慶應義塾大学専任講師、京都大学講師、神戸大学准教授、一橋大学准教授、同教授を経て、2020年より現職。この間2013年~15年、財務省財務総合政策研究所へ総括主任研究官として出向。キプロス大学、英ユニバーシティカレッジロンドン、米ボストンカレッジ、米コロンビア大学に客員研究員として滞在。財政制度等審議会、社会保障審議会、統計委員会などの臨時委員を歴任。

ISBN:9784766428957
出版社:慶應義塾大学出版会
判型:A5
ページ数:532ページ
定価:6800円(本体)
発行年月日:2023年05月
発売日:2023年05月18日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBF