明治大正昭和の三代にわたる旺盛な創作活動を展開した泉鏡花。その豊穣な世界は、作者を取り巻く現実とのきびしい対峙によってはじめて創出されたとの認識から、生涯の全体を俯瞰した総説に続き、日清戦後の観念小説の分析を行い、二度に及ぶ逗子滞在期の「逗子もの」の位相を定め、すすんで大正期を特徴づける長篇小説読解の基礎を固めて、さらに能楽や近世文芸からの深い影響を本格的に実証。鏡花作品の上演史についても、従来の理解を一新する、より総合的な把握を提示した。本書の論考は、厳密な年譜考証に基づき、作者の伝記的事実を確定、素材典拠を博捜して発想の源を探るとともに、自筆原稿の調査をふまえ、作品生成の過程をつぶさにたどったところに特徴がある。