MINERVA 人文・社会科学叢書 247
政治風刺画による「社会不安」の可視化と「黒人支配」への恐怖
20世紀転換期の米国地方紙にみるネガティブ・キャンペーンと「人種」
著:深松亮太
内容紹介
米国で「黒人支配」という虚構の「可視化」はいかに行われたのか。経済不況や移民問題を抱えた20世紀転換期の米国。「黒人支配」という誇張表現によって煽られた恐怖は風刺画によって可視化され、更なる「社会不安」を扇ぎ立てた。本書では当時の地方紙を紐解き、「黒人による白人の管理・支配」という逆転を伴って描かれた風刺画が与えたインパクトをはじめ、その最中であっても冷静に融和言説を唱えた人々の姿を明らかする。
目次
序 章 「社会不安」の醸成を通じた白人社会の再統合
1 考察対象を現代社会の文脈から考える
2 「社会不安」醸成の背景と先行研究の検討
3 本書のねらいと構成
第Ⅰ部 風刺画の国際的展開と他者表象
第1章 『評論の評論』と風刺メディアの流行
1 『評論の評論』の創刊と新聞メディアにおける影響
2 『評論の評論』からみる風刺画の模倣と応用
3 風刺画描写の相互影響効果
4 ノーマン・E・ジェネットの風刺画にみる表現の模倣と応用
第2章 19世紀後半アメリカ合衆国における「他者」の劣等表象――移民・経済不況・帝国主義化
1 19世紀後半の合衆国における政治・社会状況と人種・エスニシティ
2 移民の政治動員への反発と戯画表現
3 海外領土住民に対する教育・保護の言説と戯画表現
第Ⅱ部 黒人の政治参加と白人社会の動揺
第3章 共和党とポピュリスト党の連立政権と人種間の政治的提携 ………
1 ポピュリスト運動の展開と衰退
2 黒人農民の組織化と南部における反黒人キャンペーンの展開
3 ノースカロライナ州における反黒人キャンペーンの展開とポピュリスト党
4 「貧しい農民」の連帯から「貧しい白人農民」の連帯へ
第4章 黒人の公職登用と黒人新聞『ガゼット』の融和戦略
1 黒人の地位向上と「黒人支配」
2 黒人公教育の制度基盤の強化と「特別教育税」の導入
3 黒人の投票権剥奪と識字率に対する危機意識
4 「黒人支配」への対抗意識と人種間の融和
第Ⅲ部 「黒人支配」という虚構の可視化はいかに行われたか
第5章 政治風刺画による「黒人支配」の言説形成
1 風刺画に表現されたポピュリスト党内部の連立をめぐる対立
2 表象の目的としての政党間の対比と支持層の拡大
3 反黒人キャンペーンにおける人種表象と「黒人支配」の問題化
第6章 「白人支配」に利用された逆転のレトリック――米国地方紙にみる「社会不安」のイメージ化
1 ノーマン・E・ジェネットの風刺画にみられる連続性と断続性
2 連立政党の弱体化と黒人の権力肥大
3 黒人の暴力性と支配・被支配の逆転
終 章 政治における黒人の不可視化と「白人支配」
1 政治風刺画のグローバルな展開における模倣と応用
2 「黒人支配」の言説形成とそれに対する社会の反応
3 「黒人支配」の可視化と「支配」をめぐる逆転のレトリック
4 「白人支配」の復権を記念する行為
註
図版出所一覧
参考文献
あとがき