<原子理論はその始まりから必然的に仮説的性格のものでしたし、また原子たちの世界を直接見てとることは事柄の本性そのものからしてとうていできることではないものと信じられていた以上、原子理論はこの性格をいつまでももち続けることになると仮定しなければなりませんでした。……しかし、原子の実在性に関する疑念のことごとくがしりぞけられることになり、さらに原子の内部構造についてさえも事細かな知識が得られるようになりますと、それと同時にわれわれの知覚形式が自然的に制限されていることを思い知らされるに至ったということは教訓的な事の成行きでした。>
(「原子理論と自然記述の根底をなす基本原理」)
アインシュタインと並び称される、20世紀の物理学者、ニールス・ボーアのエッセイ集三部作をまとめた一冊。観測と実在をめぐる二人の論争を回顧した「原子物理学における認識論的諸問題に関するアインシュタインとの討論」をはじめ、量子力学のパラドキシカルな諸問題に先駆的な解釈をもたらした、現代物理学の記念碑的な著作である。そこでは、「自然記述」と「人間の知識(認識)」をめぐるテーマが、鋭利かつ明瞭に展開されている。