中世の博多とアジア
著:伊藤 幸司
内容紹介
中世日本においてアジアへの窓口であり、アジアにおける日本への窓口でもあった博多。
アジアの海商が来航する博多での貿易活動は、民間取引や国家外交など、多様で広範な国際交流のなかで展開されていた。
また、博多で展開する宗教勢力は、こうした国際交流と密接不可分の状況で展開し、その影響はネットワークを通じて広く列島の各所にも及んでいた。
中世の博多をもっとも特徴付ける要素である「貿易」と「宗教」という視角から俯瞰的に考察し、中世日本最大の国際貿易港であり、東アジア海域有数の港湾都市であった博多の実像に迫る。
国際交流史、都市史、流通史、宗教史を架橋する新知見を提示する画期的な一書。
目次
カラー口絵
凡 例
序 章 中世博多研究の潮流
はじめに
一 中世博多をめぐる文献史学と考古学との協業
二 「狭義の博多」と「広義の博多」
三 「トウボウ」をめぐる議論
四 本書の構成
おわりに
第一部 貿易都市博多
第一章 港町複合体としての中世博多湾
はじめに
一 貿易物資集積地としての博多湾
(1) 集散地としての博多湾
(2) 貿易物資としての材木
二 博多湾のなかの港湾機能
(1) 志賀島
(2) 能古島
(3) 北崎(唐泊)
(4) 博多湾における湾口部の港湾機能
三 都市博多を補完する博多湾の港町
(1) 今津
(2) 姪浜
(3) 香椎
四 博多湾のなかの箱崎
(1) 箱崎津
(2) 筥崎宮をめぐる諸勢力
(3) 筥崎宮と博多綱首
(4) 箱崎と博多
おわりに
第二章 中世博多の海商と海の道―南島路をめぐって―
はじめに
一 一四世紀前半以前の南島路
(1) 一一世紀後半以降の高麗―奄美群島と海商
(2) 南島路の萌芽
二 一四世紀後半以降の南島路
(1) 南島路と琉球
(2) 中世後期における博多商人の役割をめぐって
(3) 『海東諸国紀』に描かれた南島路
おわりに
第三章 日朝関係における偽使の時代―博多商人の視角から―
はじめに
一 偽使の発生と展開―一五世紀前半の通交統制と博多商人―
(1) 偽使の初見
(2) 世宗期の通交統制策
(3) 九州探題渋川氏との連携
(4) 大友氏との連携
(5) 中央政権との連携
(6) 宗貞盛の博多進出と博多商人
(7) 癸亥約条の成立とその影響
(8) 新たな通交権の模索
(9) 博多商人以外の通交者たち
二 偽使通交の拡大と変容―一五世紀後半の対馬宗氏と博多商人―
(1) 一四五〇年代以降の深処倭名義の通交権
(2) 「朝鮮遣使ブーム」の実態と対馬宗氏・博多商人
(3) 一六世紀から一七世紀前半の偽使通交
おわりに
第四章 中世後期の博多とアジア
はじめに
一 一四世紀東アジアにおける王朝交替
二 南北朝の動乱と東アジア
三 遣明船の開始
四 南蛮船の渡来
五 応永の外寇と日本国王使
六 宋希璟の来日と博多の朝鮮通交
七 博多商人宗金の朝鮮通交
八 遣明船の復活と博多
九 博多商人による朝鮮通交権の模索
一〇 偽使通交の拡大
一一 博多商人と琉球
一二 偽使通交権の崩壊
一三 一六世紀の博多とアジア
おわりに
第二部 宗教都市博多
第五章 宗教都市博多の中世―寺社を中心として―
はじめに
一 中国的世界の誕生―博多浜の禅寺―
二 蒙古襲来と博多の寺社
三 息浜の開発と寺院の建立
四 大内氏の進出と博多の寺々
五 博多都市民の神々
おわりに
第六章 博多と鎌倉―鎌倉時代の日本禅宗界―
はじめに
一 博多禅と鎌倉禅
二 蘭渓道隆と博多
三 南浦紹明の博多下向
四 南浦紹明と趙良弼
五 鎌倉と直結する博多の禅寺
おわりに―博多と鎌倉の希薄化―
第七章 首羅山・油山と東アジア
はじめに
一 悟空敬念と円爾
二 悟空敬念と東巌慧安
三 悟空敬念と兀庵普寧
四 首羅山と博多
五 油山と博多
おわりに
第八章 中世の崇福寺をめぐって
はじめに
一 大宰府崇福寺と博多承天寺
二 大応派と聖一派の確執
三 大宰府横岳派の展開
四 室町期の崇福寺と妙楽寺
おわりに―近世の崇福寺へ―
第九章 博多聖福寺と臨済宗幻住派
はじめに
一 無隠元晦とその弟子
二 幻住派の世紀
三 戦国・織豊期における聖福寺復興活動
おわりに
第三部 博多の史料研究
第一〇章 聖福寺古図と承天寺古図―描かれた戦国時代の博多―
はじめに
一 聖福寺古図
(1) 紛失した「聖福寺古図」
(2) 九州大学の「聖福寺之絵図」
(3) 描かれた聖福寺の関内
二 承天寺古図
(1) 策彦周良の賛文をめぐって
(2) 狩野松栄の絵をめぐって
おわりに
第一一章 湖心碩鼎『頤賢録』について
はじめに
一 湖心碩鼎
二 『頤賢録』
おわりに
終 章 アジアのなかの港市博多
はじめに
一 港市博多の変遷
(1) 浮島に誕生した博多
(2) 博多津唐房の形成
(3) 博多息浜の開発
(4) 東アジア海域秩序の変容への対応
(5) 博多―異国をめぐる航路
二 集散港としての博多の構造
(1) 港町複合体としての中世博多湾
(2) アジアの港市との比較
おわりに
史料編 湖心碩鼎『頤賢録』
凡 例
『頤賢録』乾
『頤賢録』坤
初出一覧
研究費使用一覧
あとがき
掲載図表一覧
参考文献一覧
索 引