【書評】
「胸部CT画像を「眺める楽しさ」と「考える面白さ」を教えてくれる一冊」
呼吸器内科医であれば,胸部CTを読影しない日はほとんどないであろう.外来でも病棟でも,まず患者背景や身体所見をとることはもちろんだが,それらの情報とCT所見を照らし合わせて疾患を想起し,診断を組み立てていく.しかし実際には,「びまん性粒状影はあるが,鑑別として何があがるだろうか」「この所見はどのように表現すればいいのか」と立ち止まってしまうことも少なくない.診療の場で読影しなければいけない胸部CTは増える一方であるが,その経験,知識を体系的に整理し直す機会は意外に少ないように思う.
本書を開いて最初に感じたのは,「これは画像集として眺めているだけでも楽しい」ということである.前半の約半分はCT画像アトラスで構成されており,典型例から比較的まれな症例まで,多数の美しい画像が掲載されている.しかも右ページには画像の成り立ちを疾患の病態から突き詰める解説が配置されており,そこを隠して画像だけを眺めれば自然と「これは何だろう」と考えることができ愉しい.診療の合間に数ページだけ開いても勉強になり,休日に時間をかけて読み進めても飽きない.まるで画像クイズ集を解くような感覚で読み進められる点は,本書ならではの魅力であろう.
もちろん,本書の価値は豊富な画像だけではない.3章に分かれた後半では,その画像をどのように診断へ結び付けるかが丁寧に整理されている.第Ⅰ章では各CTパターンがどのような病態・病理学的変化から生じるのかが解説されており,「なぜこのような陰影になるのか」を理解できる構成となっている.
第Ⅱ章では,画像パターンから鑑別診断へ至る思考過程がdecision treeを用いて整理されている.画像だけではなく,発症様式や免疫状態,喫煙歴,曝露歴などの患者情報を組み合わせながら鑑別を絞り込んでいく流れは,実際の診療そのものである.この第Ⅱ章が本書前半のアトラスとリンクしており,画像に立ち戻って理解を深めることができる.
最後の第Ⅲ章には実践的な症例問題が11症例収載されている.この11症例は(ネタバレになるが)日常臨床で頻繁に遭遇するcommon diseasesで構成されており,研修医や一般内科医の先生方の再学習の機会として利用しても大変有用であろうと思う.
本書のもう一つの特徴として,著者陣が大分大学の呼吸器内科医と放射線科医で構成されている点である.そのため,従来の胸部CT解説書で中心となることの多いびまん性肺疾患だけでなく,感染症の画像診断についても非常に充実している.感染症では宿主因子や臨床経過を踏まえた画像の読み方がきわめて重要であり,その考え方が随所に盛り込まれていることは本書の大きな特色と感じた.細菌性肺炎の項に「肺炎球菌の尿中抗原陽性例において,小葉中心性粒状影や気管支壁肥厚が認められれば,積極的に気管支肺炎を生じる微生物との混合感染を疑う」など随所に味わい深いtipsが記されている.
近年はAIによる画像診断支援も急速に発展している.しかし,画像所見を患者背景と結び付け,適切な鑑別診断や治療方針へつなげる過程は,依然として臨床医に求められる重要な能力である.本書は単なるCTアトラスでも,読影マニュアルでもない,「画像をみて考える」楽しさを思い出させてくれる一冊である.一般内科医には頼れる画像アトラスとして,呼吸器内科医には知識を整理しupdateするための実践書として,ぜひ多くの先生方に手にとっていただきたい.
臨床雑誌内科138巻5号(2026年11月号)より転載
評者●立石知也(東京科学大学病院呼吸器内科 特任准教授)
【序文】
本書は,「CT画像パターン」から,呼吸器疾患の診断,病態把握,治療方針までを理解する,これまでにない新しい切り口の書籍として2018年12月に初版を発行し大変好評を得てきた.初版発行後7年が経過したこと,そして何より医療が急速に進歩していることを踏まえ,改訂が必要との判断に至った.今改訂では,「CT 画像パターン」別に特徴的所見を並べた豊富なアトラスや診断過程を示したフローチャートなど初版の特長・コンセプトを踏襲しつつ,この間の本領域の進歩(COVID-19の流行,各種ガイドラインの改訂など)を反映し,フローチャートにおいては診断過程に即して確認すべき事項のほか,より疑わしい疾患が把握しやすいものへとアップデートを図った.
実臨床において通常は病歴聴取から始まり,身体所見,胸部X線・CT撮影と読影,検査所見などを加味して鑑別疾患を考え,さらに気管支鏡などの侵襲的な検査を経て最終的に確定診断,治療を行うといったdecision treeをたどっていくことになるが,呼吸器疾患は他の領域には類をみない多様性があり,多くの疾患が存在しているため,診断過程における画像,とくに胸部CT画像の読影は呼吸器病学を学ぶ医師には必須である.
呼吸器疾患における胸部CT 画像は,陰影の性状と特徴[① びまん性粒状影,② 結節影,③ 囊胞,④ 空洞,⑤ すりガラス影,⑥ 浸潤影(consolidation)など]および分布[① 小葉中心性,② 小葉辺縁性(小葉間隔壁),③ 汎小葉性(区域性,非区域性),④ 気管支血管束周囲,⑤ ランダム]の組み合わせに集約できる.そこで本書においては,実臨床に近い診断手順を踏むことを目的として,decision treeとⅠ章の各項では胸部CT所見をもとに放射線科医による鑑別診断の方法と解説を行い,「CT画像パターン」の組み合わせの優位性を熟知することで呼吸器疾患への理解を深め,Ⅱ章においては呼吸器科医による患者の臨床情報を加味した診断過程のフローチャートを参照しながら,疾患ごとの病態把握と確定診断を行い,それに続く治療方針にまでたどり着くことができる構成とした.本書は胸部CT画像のdecision treeに沿って鑑別診断を進めることを基本としているが,さらにdecision treeでは語れないような,画像パターンで一発診断が可能な疾患,画像パターンが多彩であるため胸部CT画像のみでは鑑別診断が困難な疾患も取り上げた.Ⅲ章では本書のまとめとして,実症例を用いたQ&A形式のクイズ症例を掲載し理解力を試すようにしている.
本書は,これまで出版されている疾患のカテゴリー別(感染症,腫瘍,びまん性間質性肺疾患,アレルギー性疾患など),あるいは疾患別の記載が主である呼吸器病学や胸部CT画像に関する教科書とは異なり,実臨床に近い構成となっており,どのページから開いても謎解きの魅力が満載で,興味をもって読み進めることができる推理小説のような書籍である.本書の使い方を参照しながら知らないうちに実力がつくような実体験をし,呼吸器病学の面白さを実感していただければ幸いである.
2026年3月
門田淳一
【目次】
呼吸器疾患のCT画像パターンとdecision tree
呼吸器疾患のCT画像パターンアトラス
1|びまん性粒状影
A.胸膜・葉間に接している(小葉辺縁性・ランダムパターン)
a.小葉辺縁性
b.ランダムパターン
B.胸膜・葉間に接していない(小葉中心性)
a.境界明瞭な分岐状粒状影(細気管支病変)
b.境界不明瞭な淡い粒状影(細気管支+細気管支周囲病変)
2|広義間質を主座とする病変
A.smoothな気管支血管束・小葉間隔壁の肥厚
B.小葉間隔壁の肥厚+nodule(しばしば腫大リンパ節を伴う)
3|嚢胞
A.嚢胞が主体
B.consolidationやすりガラス影に付随する
4|多発結節
A.感染
B.非感染
5|consolidation
A.分布による分類
a.区域性
b.非区域性
c.領域性
d.末梢がspareされる(リンパ路による排泄が関係)
B.内部濃度による分類
a.低濃度
b.高濃度
C.空洞(あるいは造影不良域)を伴う
D.周囲散布像(小葉中心性粒状影)を伴う
E.consolidationに小葉間隔壁肥厚を伴う
F.consolidation内に牽引性気管支拡張を伴う
G.移動するconsolidation
6|びまん性すりガラス影・網状影
A.crazy-paving appearance
B.陰影内に牽引性気管支拡張を伴う
C.honeycombing
D.小葉中心性粒状影を伴う(ill-defined centrilobular nodules)
E.mosaic attenuationを伴う
7|CT sign
A.CT halo sign
a.感染
b.非感染(腫瘍)
c.非感染(炎症)
B.reversed halo sign
C.galaxy sign
D.angiogram sign
E.gloved finger sign
F.air-crescent sign/meniscus sign
G.Swiss cheese appearance
8|画像パターンで一発診断が可能な疾患
9|画像パターンが多彩で鑑別が困難な疾患(臨床所見が非常に重要となる疾患)
Ⅰ章 CTの基本的な理解 画像パターンとその考え方
1|CTの基本的理解
2|画像パターン別に考える鑑別の進め方・鑑別リスト
1.びまん性粒状影
2.広義間質を主座とする病変
3.嚢胞
4.多発結節
5.consolidation
6.びまん性すりガラス影・網状影
7.CT sign
8.画像パターンで一発診断が可能な疾患
9.画像パターンが多彩で鑑別が困難な疾患(臨床所見が非常に重要となる疾患)
3|症状が軽微なのに画像所見が派手な疾患
4|症状のわりに画像所見が乏しい疾患
Ⅱ章 CT画像パターンから考える呼吸器疾患の診断と治療方針
1|びまん性粒状影
A.胸膜・葉間に接している(小葉辺縁性・ランダムパターン)
a.小葉辺縁性
b.ランダムパターン(血行性)
B.胸膜・葉間に接していない(小葉中心性)
a.境界明瞭な分岐状粒状影
b.境界不明瞭な淡い粒状影
2|広義間質を主座とする病変
A.smoothな気管支血管束・小葉間隔壁の肥厚
a.急性の経過で発症する疾患:肺水腫,急性好酸球性肺炎
b.慢性の経過で発症する疾患:HES/CEL,CAEBV
B.小葉間隔壁の肥厚+nodule(しばしば腫大リンパ節を伴う)
3|嚢胞
A.嚢胞が主体
a.喫煙歴がある症例
b.若年者もしくは喫煙歴がないか,週ー年単位で明らかな増悪がみられる症例
B.consolidationやすりガラス影に付随する
a.呼吸器症状や画像所見が数日で悪化する症例
b.週ー月単位で増悪する症例
c.月ー年単位で増悪,もしくは不変の症例
4|多発結節
A.感染
B.非感染
5|consolidation
A.分布による分類
a.区域性
b.非区域性
c.領域性
d.末梢がspareされる(リンパ路による排泄が関係)
B.内部濃度による分類
a.低濃度
b.高濃度
C.空洞(あるいは造影不良域)を伴う
D.周囲散布像(小葉中心性粒状影)を伴う
E.consolidationに小葉間隔壁肥厚を伴う
a.急性に発症した場合
b.緩徐に発症した場合
c.喘鳴を伴う場合
F.consolidation内に牽引性気管支拡張を伴う
G.移動するconsolidation
6|びまん性すりガラス影・網状影
A.crazy-paving appearance
B.陰影内に牽引性気管支拡張を伴う
C.honeycombing
D.小葉中心性粒状影を伴う(ill-defined nodules)
E.mosaic attenuationを伴う
7|CT sign
A.CT halo sign
B.reversed halo sign
C.galaxy sign
D.angiogram sign
E.gloved finger sign
F.air-crescent sign/meniscus sign
G.Swiss cheese appearance
8|画像パターンで一発診断が可能な疾患
9|画像パターンが多彩で鑑別が困難な疾患
Ⅲ章 症例からのアプローチ CT画像の読み方と鑑別診断Q&A
1.持続する咳嗽があり,健診の胸部単純X線写真で異常を指摘された症例
2.発熱と両肺のびまん性粒状影を認めた症例
3.健診を契機に腫瘤影,小葉間隔壁肥厚および粒状影を認めた症例
4.発熱が続き喀痰の出現を認めた症例
5.発熱に加え咳嗽の増強が認められた症例
6.乾性咳嗽および労作時呼吸困難を呈し,抗菌薬が不応であった症例
7.乾性咳嗽,労作時呼吸困難をきたした症例
8.慢性的に咳嗽,喀痰を自覚しており,血痰を認めた症例
9.亜急性に乾性咳嗽,発熱,呼吸困難を呈した症例
10.発熱と起坐呼吸を呈した症例
11.咳嗽が長引き労作時呼吸困難が出現,増悪した症例