新時代のための新知識受容の様相
20世紀前半、「強国強種」(国と種を強くする)を求めた清末民初期の中国では、生殖や子孫の質に直接関係する「性」の知識がかつてないほど注目を浴びることとなった。性に関する知識は単なる個人の問題ではなく、国家や民族の存続にかかわる重要な課題と見なされ、その科学的探求が社会的・政治的な目的と結びつけられていったのである。本書では、清朝末期から五四時期にかけて、中国の知識人たちが西洋の性科学書の翻訳を通してどのように知識を吸収し、近代的な性規範を形成していったのかを明らかにする。
女性の解放と自立、婚姻や性愛のあり方という性科学が提起した問題群は、問いのかたちこそ変えながら、いまなお切実な政治的・社会的課題であり続けている。女性の地位向上という点で世界の模範生とは言いがたい国や地域に住む人々にとって、ときに誤謬や偏見に満ちているかにも映る百年前の性科学の言説は、一笑に付して済ませられる過去の話では決してない。(「序」村田雄二郎)