飢えをものともせず、ひたすら理想の文学を求めてきた横光が『蠅』と『日輪』とを捧げて華々しく文壇に登場してきたのは大正十二年のことである。思想乱入という暗い混迷の中で、横光は常に文学の理想の形を求めて生きる。その強い意思による生き方が作品をより一層魅力のあるものにした。この作家がなくなっておよそ七十年。まだ一時代を風靡した文豪が忘れ去られる歳月ではないが、不思議にも横光の精彩は次第に失われてきている。現代文学の課題を多くはらむこの作家を、もう一度よく検討すべき時期であろう。そのためにこの書が少しでも役立ってくれたら幸いである。