翻訳の勉強がきっかけで短歌を始めた著者が、家族や友人、猫たちとの生活をときに優しく、ときにグロテスクに詠った第一歌集。
様々な命と向き合う歌がまっすぐに胸にささる。心に新しい力が満ちてくる。
――東直子
やさしさは痛みでもある。
その真実をやわらかなポエジーへと変える水須ゆき子は、風の心臓を持っている。
――笹 公人
水須さんの歌には、泣けるものが多い。けれど、それは読者を泣かせにくる歌ではない。年を重ねた人にこそわかる、しみじみと胸に沁みる種類の涙である。
傷だらけでありながら、傷が増えるほど人にやさしくなっていく。水須さんは、そういう人なのだと思う。ご本人のまとっている温かなオーラからそのことは十分に伝わってくる。
本歌集のページを繰りながら、やさしさとは他者の痛みを知ることなのだと、あらためて教えられた気がした。
――笹 公人 解説より
短歌から離れていた二十年の間に、いろいろなことがありました。夫の両親も、私の両親も、もういません。病気がちの夫は低空ながらも安定飛行、ぴよぴよサンダルを履いて玄関から出て行った娘は三十路になりました。猫は増えました。犬も変わりました。
なぜまた短歌が作れるようになったのか、自分でもよくわかりません。ただ、今は現実から逃げるために歌を作るのではなく、現実を乗り越えるために歌を作っているような気がします。
――著者あとがきより
点滴に冬の日溶けてわたしたち優しい嘘を約束と呼ぶ
出て行けと母に言われて幼子はぴよぴよサンダル黙々と履く
ねえ月がきれいだよって娘からLINEが来てて別れたらしい
庭先に野兎の親子来ていたりわれもうさぎも子を背に隠す
呼べば「にゃ」と返事をくれるようになり虎猫はボスを引退したり
<収録歌より>
KAIKAレーベルとは……
日本最古の歌集『万葉集』から、現代短歌まで。KAIKAレーベルは、日本文学、日本語、日本文化などの専門書、学術書、一般書を主に編集・出版してきた笠間書院が、ベテラン歌人の監修のもと、現代歌人の第一歌集を刊行するために立ち上げました。上代から現代まで、あらゆる文学をつなぐ架け橋のひとつです。