平安から室町の各時代によって、仮名の書様の違いはどこからくるのか。
その違いは何を物語っているのか。
平安末期から室町時代にわたる中世の自詠自筆の和歌資料や、
散逸本資料を掘り起こすと同時に、
各時代によって異なる代表的な仮名の書様と、
その書様を生む背景―和歌の社会的な役割や、
役割による場に即した和歌内容、
メインとなって詠歌をする人々―との関係を探る。
図版500点以上掲載!
【……これらの資料を掘り起こす過程で様々な時代の古筆切を目にする間に、各時代に書写された古筆の仮名の書様が異なるのは、時代によって、最も盛んに和歌の活動が行われた場が異なっており、〝和歌を記す文字〟である仮名の書様は、詠まれる場や和歌の内容に相応しいものになるからではないか、という見通しを持った。すなわち、各時代にメインとなる和歌の詠まれる場や役割があり、そこで盛んに和歌を詠む人々がいて、彼等は自らの和歌を場の用に即したかたちの仮名で記す。ちなみにこれらは詠者が自詠を自筆で記した仮名である。一方、最も盛んな詠歌の場で使用された仮名の書様は、同時代の能書等に取り入れられて洗練・様式化され、例えば『和漢朗詠集』のような古典を書写した調度手本類にかたちを遺す。そして様式化された書様は再び、広く歌を詠む人々に用いられる、というように、和歌資料としての古筆には、和歌が詠まれる場に密着した基底部分で書かれたものと、能書などによって洗練・様式化された形となった精華部分に属するものとがあり、基底と精華は下部の書きぶりを上部が取り込んで反映したり、上部を手本に下部が習って浸透普及するというような、相互が影響し合う相関関係にあると想定してみた。……本書「序章」より】