情勢分析レポート 20
習近平政権の中国
「調和」の次に来るもの
編:大西 康雄
内容紹介
2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会は、党最高指導者グループが10年ぶりに大幅交代する重要な節目であったが、それ以上に、世界第2位の経済力を備え、軍事力を背景に強硬外交を展開して国際社会に大きなインパクトを与えていた中国という国家の行方を占う意味からも注目を集めた。おりから、日本政府による尖閣諸島国有化(同年9月)をきっかけに日中関係は急激に悪化しており、中国の新政権をめぐるさまざまな議論が繰り広げられていた。
その後、2013年3月には中国で第12回全国人民代表大会第1回会議が開催され、国家主席をはじめ閣僚人事が決定され、新政権の陣容が明らかとなった。本書では、その人事分析に加え、同会議で打ち出された諸政策の検討を行い、あらためて政権の今後について展望を試みた。全体の構成は二部からなる。まず前半では、序章で前政権が残した課題を総括し、第1章で新政権の政治的リーダーシップの今後を予測、第2章で経済運営の課題を短期と中長期の視点から分析し、第3章で外交政策決定の構造的変化を検証する、などマクロ的展望作業を行った。続く後半部分では、第4章で大幅に変わった軍の指導体制を多角的に検討し、第5章では停滞する国有企業改革の現状とその原因を分析、第6章で社会保障制度改革の到達点と課題を整理する、など政権にとり重要な個別課題について掘り下げた分析を行っている。
もとより、本書で試みた分析だけで中国の今後を占うことには限界がある。中国は巨大で複雑であり、何よりも現在、急激な変化の只中にある。しかし、各筆者の努力により、展望作業を行うにあたって逸することのできないポイントを提示することはできたのではないかと考える。大方の読者のご叱正を待ちたい。
目次
まえがき
巻頭図表
序章 習近平政権の展望 / 大西 康雄
はじめに
第1節 胡錦濤政権の「調和社会」建設
第2節 「調和」の現段階
第3節 習近平政権のスタンス
おわりに
第1章 習近平のリーダーシップと政権運営 / 佐々木 智弘
はじめに-三つの亀裂-
第1節 第18回党大会の人事分析-江沢民人脈の多数抜擢と党中央軍事委員会主席の交代-
第2節 第18回党大会報告の分析
第3節 全人代の分析-習近平の三権掌握と李克強の国務院総理就任-
第4節 習近平のリーダーシップ
第5節 課題への対応と展望
おわりに
第2章 習近平政権の経済運営と改革の課題 / 大西 康雄
はじめに
第1節 転機の中国経済
第2節 世界銀行の処方箋と改革論争
第3節 党大会、中央経済工作会議、全人代
第4節 日中経済関係の変質と今後
おわりに
第3章 政権移行期における中国外交-「平和的発展」路線の行方- / 松本 はる香
はじめに
第1節 中国の「平和的発展」路線の軌跡
第2節 中国の外交が強硬路線へ傾いている五つの要因
第3節 尖閣諸島問題をめぐる日中関係の悪化と反日デモの構図
おわりに
第4章 軍権の掌握めざす習近平の戦略と課題 / 阿部 純一
はじめに
第1節 第18期中央軍事委員会人事
第2節 第18回党大会報告にみる軍近代化路線と戦略
第3節 習近平のリーダーシップと軍の掌握-「文民統制」の見地から-
第4節 人民解放軍の動態-海軍の動向と軍近代化のめざす戦略-
第5節 増大する国防費と「中国海警局」の設置
おわりに
第5章 「国進民退」と習近平政権の課題 / 渡邉 真理子
はじめに
第1節 「国有経済の堅持」と「民間資本への市場開放」の対立
第2節 経済の論理-「国進民退」と「旺盛な参入」-
第3節 政治の論理-「社会主義市場経済」の決定とその後-
おわりに-習近平体制のスタンスと展望-
第6章 社会保障制度の新たな課題-国民皆保険体制に内在する格差への対応- / 澤田 ゆかり
はじめに
第1節 胡政権の実績
第2節 習近平政権が引き継ぐ課題
おわりに