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グローバリゼーションの進展の中で、サブサハラ・アフリカ出身女性の国際移動は急増している。これまでの国際移動についての研究の多くは、移動先の社会への統合に関心が集まりがちであり、国際移動の動機や経路といった移動プロセス自体については必ずしも丁寧な考察がなされていなかった。本書では、移動する女性達への聞き取り調査に基づき、女性達自身の語りを分析することで、サブサハラ・アフリカ出身女性の国際移動の動機と移住後の生活状況の両方について解明している。
サブサハラ・アフリカ出身女性の国際移動の多様性は、移動先国に加えて、本人、出身国という3つの要因の相互作用の中から生まれる。本書では、これらの3つの要因に注目しながら事例研究を通じてその実態を明らかにする。
サブサハラ・アフリカ出身女性の移動プロセスは多様であり、本書では、比較的長期に滞在する労働移民の場合に加えて、短期間で出身国と外国の間を行き来して生計を立てている「頻繁な移動者」、紛争や迫害を理由に移動する難民女性も分析対象に含める。具体的に取り上げる事例は、６つの出身国・地域（エチオピア、ケニア、モザンビーク、コンゴ民主共和国、ソマリア、フランス語圏アフリカ）からサブサハラ・アフリカ域内の南アフリカ、そして域外の湾岸アラブ諸国、アメリカ、ヨーロッパへの国際移動である。これらの事例研究を通じて、本書では、サブサハラ・アフリカ出身女性の国際移動の多様性を描き出すとともに、多様性を生む要因について明らかにする。

まえがき　児玉 由佳

序 章　アフリカ女性の国際移動
　第1節　本書の対象とする国際移動と用語の定義
　第2節　国際移動の多様性をもたらす要因とジェンダー
　第3節　統計データが示すアフリカ女性の国際移動
　第4節　本書の構成と各章の内容

第1章　湾岸アラブ諸国に渡航するエチオピア人女性－就業機会を求めて－　児玉 由佳
　はじめに
　第1節　湾岸アラブ諸国における外国人労働者雇用の特徴
　第2節　エチオピアと湾岸アラブ諸国
　第3節　エチオピア人女性が湾岸アラブ諸国への労働移動を選択するプッシュ－プル要因
　第4節　湾岸アラブ諸国へ渡航したエチオピア人女性家事労働者の実態
　第5節　エチオピア政府による在外自国民保護のための取り組み
　おわりに

第2章　アメリカ合衆国東部への国際移動と生存戦略－ケニア出身の女性移民の語りに注目して－　石井 洋子
　はじめに
　第1節　アメリカへ渡ったケニア人
　第2節　女性を押し出すケニアのポリティカル・エコノミー
　第3節　ギクユ人女性移民の生活戦略
　第4節　新たなジェンダー観との対峙
　おわりに－ふたつの大陸をめざす女性移民たち－

第3章　南アフリカへ向かうモザンビーク人女性移民の移動性と脆弱性－周辺部からの流出－　網中 昭世
　はじめに
　第1節　先行研究－民主化後の新たな移民を捕捉する試み－
　第2節　ICBTならびに労働移民の起源と活動の変遷
　第3節　送出国・受入国の国境を越える経済環境の変化と影響
　第4節　モザンビーク人女性移民の実態－ICBTと労働移民－
　おわりに

第4章　南アフリカにおけるコンゴ人女性による庇護申請と生活経験 佐藤 千鶴子
　はじめに
　第1節　都市難民研究の射程
　第2節　コンゴ人女性が庇護を申請する理由
　第3節　コンゴ人女性の不安定な滞在資格と生計活動
　おわりに

第5章　英国ロンドンにいるソマリ人女性たちの生計活動　須永 修枝
　はじめに
　第1節　背景、調査概要、分析アプローチ
　第2節　シングルマザーとしての稼得者を支える社会保障制度
　第3節　EU国籍者のイギリスへの移住と起業する女性たち
　おわりに

第6章　サブサハラ・アフリカからフランスへの女性の移動と滞在資格－家族統合／非正規滞在／FGMを理由とする庇護申請を中心に－　園部 裕子
　はじめに
　第1節　アフリカからフランスへの流入の歴史
　第2節　サブサハラ・アフリカ出身女性の移住
　第3節　2000年代のFGMにもとづく庇護申請
　おわりに

編：児玉　由佳
編著者　
児玉 由佳　　アジア経済研究所新領域研究センター ジェンダー・社会開発研究グループ長

著者（執筆順）
石井 洋子　　聖心女子大学 現代教養学部 人間関係学科 准教授,
網中 昭世　　アジア経済研究所 地域研究センター アフリカ研究グループ
佐藤 千鶴子　アジア経済研究所 地域研究センター アフリカ研究グループ
須永 修枝　　東京大学大学院 総合文化研究科
園部 裕子　　香川大学 経済学部 教授