講談社学術文庫
役人の生理学
著:バルザック
訳・解説:鹿島 茂
内容紹介
革命後、ジャーナリズムが勃興したフランスで一気にブレイクした「生理学」シリーズ。現代の「スーパー・エッセイ」のたぐいですが、バルザックの観察眼にはなかなか唸らせられます。冒頭の定義があります。「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職場を離れる自由を持たず、書類作り以外なんの能力もない人間」現在と同じではありませんか!付録に、一九世紀の役人文学3篇を追加。
一九世紀の半ば頃、パリの書店は、「生理学」ものと呼ばれれる小冊子で溢れかえっていました。それは、扱う主題はさまざまで、風刺に満ちた出鱈目を書いたもので、青か黄の表紙がついており、読者を笑わせることを目的とした娯楽本でした。革命後、ジャーナリズムが勃興したフランスで一気にブレイクしました。現代の「スーパー・エッセイ」のたぐいでしょうか。
しかしその観察眼にはなかなか唸らせられます。
冒頭に定義があります。
「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職場を離れる自由を持たず、書類作り以外なんの能力もない人間」
現在と同じではありませんか!
能なし役人とは「郊外に一戸建てを借りて住んでいる。中背、小太りで、ゆっくりと歩き、官吏であることを誇りにしている。どんな場合でも、体制に奉仕することに心血を注ぎ、政治音痴を自慢にしている。……『ジュルナル・デ・デバ紙』の意見をそのまま採用し、どんな権力であろうと、かならず権力の味方をする。」
この後、産業革命が起こり、金融資本が勢力を拡大してくると、民間企業で働く「サラリーマン」が誕生してくる。役人のようなライフスタイルが市民の間に広がっていくのである。『役人の生理学』で戯画化された人々は、現代のサラリーマンの原型なのです。
役人・会社員というのは、進歩していないことに驚かされます。
大文豪による抱腹絶倒のエッセイです。
付録に、一九世紀の役人文学3篇を追加。
目次
学術文庫版まえがき
第一部 役人の生理学
第一章 定義
第二章 役人の有用性の証明
第三章 役人の哲学的・超越的歴史
第四章 区 別
第五章 役 所
第六章 いくつかの幻想的な存在について
第七章 試 補
第八章 召 喚
第九章 書記のさまざまな変種
第十章 要約
第十一章 課 長
第十二章 局 長
第十三章 給 仕
第十四章 退職者
「役人の生理学」の教訓
II 付録 役人文学アンソロジー
1 バルザック『役人』--概要と抜粋
2 フロベール『博物学の一講義』
3 モーパッサン『役人』
訳者解説
文庫版あとがき