デマ、陰謀論、ディープ・フェイク…。情報の信頼性が底抜けしてしまったかにみえる現代社会の混沌を見据えて、われわれは今後どのようにサバイブしていけばよいのだろうか。
情報が爆発的に拡散したコロナ禍のインフォデミックは、かつてないほどに「情報の価値」が目減りした時代として、後世の人類から特徴付けられるのかもしれない。情報の量が多過ぎる「情報過多」の状況は、情報の質の劣化を招きやすい。大事な情報は埋没し、悪化が良貨を駆逐する負のエコロジーを生み出してしまう。一つひとつの情報の価値を味わう前に、次から次へと手を替え品を替え目新しい情報ばかりがプラットフォームのショーケースに居並ぶことになる。しかし、どれもこれも束の間のアテンションを求めるだけであって、人生を揺るがすほどの示唆を与えてくれる深みはない。
いま欠けているのは、その「情報の価値」を教えてくれる「価値の情報」なのだ。しかしそれとても虚飾に彩られていて、「価値に関する情報の価値」が嘘くさくなってしまっている。人類が経験したことのない超データ社会のコンテンツを蚕食できるのは、AI（人工知能、artificial intelligence）」ばかりになりにけりである。AIがはじき出したアンサーの善し悪しをAIに尋ねるような時代の扉が、すぐそこに開いている。
実は、AIが生成した情報の価値を判定するのは、唯一人類に残された仕事になるはずだった。しかし、全世界で産出されるデータの総量が、2020年代に入って44ゼタバイトに達した。10の21乗という桁数は、人類が制御することをあきらめるには十分過ぎる規模である。量が質に転化することが必然であるとすれば、もはや情報の質は、われわれの関知することができない次元にあると言えるだろう。
しかし、本当にそれでよいのだろうか。AIに尋ねてみるがよい。最も効率的な情報政策とは、どのようなものなのか。地球の生態系を持続することを究極の目的とした未来倫理を問うならば、AIがアウトプットするシンプルな解答は、「地球の生態系にとって最大で最悪のノイズであるヒトの存在を早くキャンセルしましょう」ということになりかねない。
社会の片隅に、切実な思いで情報を待っている人がいる。「社会情報」とは、そうした人たちの思いを届けるものであってしかるべきであり、人類にとって「生の充溢」に資するものでなければならないはずだ。そのありかたが、今あらためて問われている。
「災害報道」、「防災教育」に続く、本作、「いのちの情報学」シリーズの第３弾では、コロナ禍におけるインフォデミックの経験をふまえて、情報空間をまなざす新たな視座を提示する。
