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継承と共有 所有と交換のかたわらで

著:栂正行

紙版

内容紹介

シェイクスピア、ディケンズ、イシグロ、ウディ・アレンなど文学や映像作品を対象に所有、継承、交換、共有という四つの活動を考察する文化論。

「人は所有、継承、交換、共有という活動をしながら日々を生きていく。それらの行為はあまりに自然で、自分のかかわる個別の例を除いて意識することは稀だ。ところがカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』(二〇〇五)は、それらの活動が広い世界全体で役割と意味を担い、また存在することの可能性を描いている」─本文より

「それぞれの人がそれぞれに固有の文化をもつ。ひとつの文化に還元できない。だから人とその作品、文化に浸ることで他人が、他の文化が理解できるようになる」─本文より

「二十世紀後半から今日までの文化の変遷や現代アメリカ文化史という大きな枠組みを理解するうえで、ウディ・アレンの作品縦覧は欠かせない。十九世紀イギリスのかなりのことがディケンズの作品や挿絵を見れば理解できるように、十八、十九世紀の江戸のかなりのことが北斎の作品を見れば理解できるように、十九、二十世紀の東京のかなりのことが漱石作品を読めば理解できるように、文学や版画とは別のウディ・アレンの映像作品に接すると二十世紀後半から二十一世紀のアメリカとヨーロッパに理解が及ぶ」─本文より

第一章 所有と継承のイギリス文学─イギリス文学に所有と継承をめぐる話題は事欠かない
〈イギリス文学というひとつの連続性をもつ対象を中心に、どのような継承行為を読み込むことができるかをみる〉

第二章 ウディ・アレンのフィルモロジー─アメリカ文化の体現と捕捉
〈物語の創造と映像の時代、アメリカとその文化の隆盛について知ろうとするならばウディ・アレンは欠かせない〉

第三章 夏目漱石の継承と途絶
〈外国文化の受容のかたちと、『こころ』のなかに先生と「私」の、ある共有に至るプロセスを読み直す〉

第四章 静と動の表象
〈ブローシャ、フライヤー、タブローという具体的な表象の類の意味と機能を解き明かす〉

第五章 大都市と文化への憧憬
〈大都市が文化の発信源であった時代、憧れと今のそこの場での輝きをみる〉

第六章 カズオ・イシグロの四つの活動─『わたしを離さないで』の交換、『忘れられた巨人』の忘却と記憶の共有、『クララとお日さま』の継承と共有
〈所有、継承、交換、共有がイシグロ作品のなかにどのように取り込まれ、小説という言語の芸術作品に仕上がっているかを考える〉

第七章 本と往復書簡、内面の共有
〈内面を共有する人々の往復書簡や手紙に触れる〉

目次

はじめに


第一章 所有と継承のイギリス文学─イギリス文学に所有と継承をめぐる話題は事欠かない

婚姻と土地の相続、継承
『ハムレット』の継承
階段と扉
機能、デザイン、エレガンス
息長き継承
継承の場としての学校
芸術と効能記憶と秘密の共有
作品の舞台と土地
ディケンズ作品とその映画
『デイヴィド・コパフィールド』
『荒涼館』
『リトル・ドリット』
『われらが共通の友』
『エドウィン・ドルードの謎』
『ザルドス』


第二章 ウディ・アレンのフィルモロジー─アメリカ文化の体現と捕捉

フィルモロジー半世紀
憧憬と時空間の移動─『ミッドナイト・イン・パリ』『アバウト・タイム』
ありふれた場と個の場─『マンハッタン』『マッチポイント』『タロット・カード殺人事件』『サバイバー』
現実と虚構─『カイロの紫のバラ』『それでも恋するバルセロナ』
出会いと別れ─『スコルピオンの恋まじない』『ウディ・アレンのバナナ』『シャーロット・グレイ』『ブルージャスミン』『メリンダとメリンダ』
他者になること─『カメレオンマン』『ウディ・アレンのザ・フロント』『さよなら、さよなら、ハリウッド』
マジック・リアリズム─『アリス』『アニー・ホール』
すり抜ける教養─『おいしい生活』
ハイとロウ─『教授のおかしな妄想殺人』『マジック・イン・ムーンライト』『インテリア』『夫たち、妻たち』『ハンナとその姉妹』
創作のプロセス
横溢するモノの文化
プロフェッショナルとロール─『ブロードウェイと銃弾』『ギター弾きの恋』
演者と役柄─『恋するバルセロナ』『新しい人生のはじめかた』『恋のロンドン狂騒曲』


第三章 夏目漱石の継承と途絶

イギリス文化遺産の日本への継承
インドの英語文学
『こころ』『坊ちゃん』のなかの継承
『虞美人草』の継承
『三四郎』『それから』─継承の途絶


第四章 静と動の表象

ブローシャ、フライヤー、タブロー、移動
静止画と動画
人形芝居と調和
ブローシャ、ポスター、フライヤー、広報
コレクションとフライヤー
フライヤーは未来形
旅と街とフライヤー
タブローとショアの「等価」
市場とタブロー


第五章 大都市と文化への憧憬

文化へのあこがれ、文化観の継承
グランドツアーと文化観
都市と文学
ジェノヴァのディケンズ、フィレンツェのエリオット『ロモラ』
フィレンツェのフォースター 『眺めのいい部屋』
文化の入口
衣・食・住、文化のフラット化
外国文化へのあこがれ
現実と憧憬
「そこのみ」
住む場所、書く場所
『鳩の翼』
一九八十年代ニューヨーク
『日はまた昇る』
『キリマンジャロの雪』
所有できない都市の所在なき「私」


第六章 カズオ・イシグロの四つの活動
『わたしを離さないで』の交換、『忘れられた巨人』の忘却と記憶の共有、『クララとお日さま』の継承と共有

イシグロの描く不思議な日本文化と所有感覚
『わたしを離さないで』の交換
『忘れられた巨人』の船頭の問い─忘却と記憶の共有
『クララとお日さま』に引き継がれる問い─AIは小説を書けるか


第七章 本と往復書簡、内面の共有

本を探す、読む、書く
モノとしての本
書店という舞台
図書館、美術館の映画と本
本の所有と読むこと
本の共有
書簡と日記─フィッツジェラルドとヘミングウェイ
往復書簡と共有─ ナイポールと姉、ナイポールの指導教官
伝えたいと思うことの意味─小川国夫と立原正秋


おわりに

著者略歴

著:栂正行
東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。同大学人文学部助手を経て、現在中京大学教養教育研究院教授。
著書に『抽象と具体』、『創造と模倣』、『引用と借景』(いずれも三月社)、『コヴェント・ガーデン』(河出書房新社)、『絨毯とトランスプランテーション』(音羽書房鶴見書店)、『大学教育と博物館』(共著、中京大学先端共同研究機構)、『土着と近代』(共編著、音羽書房鶴見書店)、『インド英語小説の世界』(共編著、鳳書房)、『刻まれた旅程』(共編著、勁草書房)、訳書にアルフレッド・ダグラス『タロット』、リチャード・キャヴェンディッシュ『黒魔術』、『魔術の歴史』(いずれも河出書房新社)、マテイ・カリネスク『モダンの五つの顔』(共訳、せりか書房)、V・S・ナイポール『中心の発見』(共訳、草思社)、サイモン・シャーマ『風景と記憶』(共訳、河出書房新社)、カミール・パーリャ『性のペルソナ』(共訳、河出書房新社)など。

ISBN:9784990775568
出版社:三月社
判型:4-6
ページ数:224ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2021年09月
発売日:2021年09月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB