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カルマンフィルタの基礎と実装 -自動運転・移動ロボット・鉄道への実践まで-

著:綱島 均
著:橋本 雅文
著:菅沼 直樹

紙版

内容紹介

R. E. Kalman( 1930-2016) によって、1960年代に提案されたカルマンフィルタは、アポロ計画の軌道推定問題への応用を皮切りに様々な分野に応用され、その応用範囲を飛躍的に拡大してきた。この飛躍の要因の背景には、コンピュータの発達とカルマンフィルタのアルゴリズムの効率性がある。カルマンフィルタのアルゴリズムの本質的な部分は、たった5 行程度のプログラムで実装ができる。一方、カルマンフィルタを実社会の様々な推定問題に適用するためには、その問題に応じて適切な構成をしなければならない。そのため、カルマンフィルタのアルゴリズムを実装するためのお膳立てが特に重要となる。
これまでにカルマンフィルタの基礎理論を解説した書籍は、数多く出版されている。一方、実社会における推定問題へのカルマンフィルタの実装について解説した書籍はほとんど出版されていない。そこで、近年開発が急速に進んでいる移動ロボット、自動運転車両、鉄道の状態監視を取り上げて、カルマンフィルタの実装技術を解説することとした。なお、本書では、カルマンフィルタの実装技術に重点をおいているため、確率理論、制御理論、行列演算等の詳細については、最小限の記載に留めている。必要に応じて関連の参考書等を参照してもらいたい。
本書は、「第1 部 カルマンフィルタの基礎」、「第2 部 移動ロボット・自動車への 応用」、「第3 部 鉄道の状態監視への応用」 の3 部で構成されている。「第1 部 カルマンフィルタの基礎」 では、線形カルマンフィルタ (KF) の導出にあたっては、できるだけわかりやすく解説するために、一般によく知られた最小二乗推定法を拡張してカルマンフィルタを導出するという構成を採用した。また、非線形のカルマンフィルタとして、拡張カルマンフィルタ( EKF)、アンセンティッドカルマンフィルタ( UKF) の導出についても説明している。加えて、複数のカルマンフィルタによる推定を確率的に統合する方法として、Interacting Multiple Model(IMM)法について基本概念を解説した。「第2 部 移動ロボット・自動車への応用」では、近年、急速に進化しているビークル( 移動ロボットや自動車などの移動体の総称) の自動運転や安全走行支援などの自律的誘導におけるカルマンフィルタの応用事例を述べている。ビークルの自律的誘導では、雑音にかき乱された車載センサからの情報をもとにビークル自身や周辺環境の状態を信頼性高く認識することが不可欠となる。「第3 部 鉄道の状態監視への応用」 においては、近年普及が急速に進んでいる鉄道の状態監視へのカルマンフィルタの応用事例について解説している。カルマンフィルタは、動的システムの逆問題を効率的に解く方法の一つとして有効であることが知られている。そこで、鉄道における状態監視の現状と展望について説明したのち、鉄道車両の車体の上下振動加速度から軌道の形状を推定するという逆問題に対する適用例を示した。

目次

第Ⅰ部 カルマンフィルタの基礎

第1章 線形カルマンフィルタ
1-1 確率分布
1-2 ベイズの定理
1-3 動的システムの状態空間表現
1-4 離散時間における動的システムの表現
1-5 最小二乗推定法
1-6 重み付き最小二乗推定法
1-7 逐次最小二乗推定法
1-8 線形カルマンフィルタ(KF)

第2章 非線形カルマンフィルタ
2-1 拡張カルマンフィルタ(EKF)
2-2 アンセンティッドカルマンフィルタ(UKF)

第3章 データアソシエーション
3-1 センサ情報の外れ値の除去
3-2 ターゲット追跡問題におけるデータ対応付け

第4章 多重モデル法による状態推定
4-1 多重モデル法
4-2 Interacting Multiple Model(IMM)法


第Ⅱ部 移動ロボット・自動車への応用

第5章 ビークルの自律的な誘導技術
5-1 はじめに
5-2 ビークルに搭載されるセンサ
5-3 ビークルの自律的な誘導に必要とされる技術
5-4 カルマンフィルタの重要性

第6章 自己位置推定
6-1 はじめに
6-2 自己位置推定の方法
6-3 デッドレコニングとRTK-GPSによる自己位置推定
6-4 デッドレコニングの状態方程式
6-5 ランドマーク観測における観測方程式

第7章 LiDARによる移動物体追跡
7-1 はじめに
7-2 LiDARによる周辺環境計測
7-3 移動物体検出
7-4 移動物体追跡
7-5 実験

第8章 デッドレコニングの故障診断
8-1 はじめに
8-2 実験システムとモデル化
8-3 故障診断
8-4 実験

第9章 LiDARによる道路白線の曲率推定
9-1 はじめに
9-2 実験システムと白線検出
9-3 白線の線形情報推定
9-4 実験

第10章 路面摩擦係数の推定
10-1 はじめに
10-2 IMM法による状態推定
10-3 推定シミュレーション
10-4 実車計測データへの適用


第Ⅲ部 鉄道の状態監視への応用

第11章 鉄道における状態監視の現状と展望
11-1 はじめに
11-2 状態監視の一般的概念と方法
11-3 車両の状態監視
11-4 軌道の状態監視
11-5 軌道状態監視システムの開発事例
11-6 今後の展望

第12章 軌道形状の推定
12-1 はじめに
12-2 車両モデル
12-3 軌道形状の推定
12-4 シミュレーションによる推定手法の評価
12-5 実車走行試験

第13章 鉄道車両サスペンションの異常検出
13-1 はじめに
13-2 鉄道車両サスペンションの故障診断
13-3 シミュレーションによる推定手法の検証

著者略歴

著:綱島 均
所属:日本大学生産工学部機械工学科 教授、
鉄道工学リサーチ・センター センター長。
1981年 大阪府立大学工学部 航空工学科卒業。
1983年 大阪府立大学大学院 航空工学専攻 博士前期課程修了。
同年株式会社神戸製鋼所入社、新交通システムの設計・建設に従事。
1995年 博士(工学)(東京大学)
1996年 日本大学生産工学部専任講師、1998 年同助教授、2004 年同教授、
2017年 鉄道工学リサーチ・センター センター長となり現在に至る。
車両運動制御、信号処理、状態監視、故障検出、ヒューマンファクタ、脳機能計測、ブレイン・コンピュータ・インターフェースに関する研究に従事。
所属学会:日本機械学会(フェロー)、自動車技術会、ヒューマンインターフェース学会、人間工学会、システム制御情報学会、計測制御学会。
著:橋本 雅文
所属:同志社大学インテリジェント情報工学科 教授。
1979年 大阪府立大学工学部 航空工学科卒業。
1981年 大阪府立大学大学院 航空工学専攻 修士課程修了。
1989年 工学博士(大阪府立大学)
1981年大阪府立大学助手、1989年広島大学工学部助教授、2004 年同志社大学理工学部教授となり現在に至る。
センシング情報処理、センサ情報統合、センサネットワーク、LiDAR応用計測、ビークルナビゲーションに関する研究に従事。
所属学会:IEEE、日本機械学会、日本ロボット学会、計測制御学会、システム制御情報学会、電気学会、自動車技術会。
著:菅沼 直樹
所属:金沢大学 高度モビリティ研究所 副所長、教授。
1998年 金沢大学工学部 機械システム工学科卒業。
2000年 金沢大学大学院 自然科学研究科 機械科学専攻 博士前期課程修了。
2002年 金沢大学大学院 自然科学研究科 システム創成科学専攻 博士後期課程修了。
2002年 博士(工学)(金沢大学)
2002年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2002年 金沢大学 工学部助手、2006年 金沢大学 自然科学研究科 講師、2015年 金沢大学 理工研究域准教授、2019年 金沢大学 新学術創成研究機構 教授、2021年 金沢大学 高度モビリティ研究所 副所長となり、現在に至る。
自動運転自動車の周辺環境認識、パスプランニング等に関する研究に従事。
所属学会:自動車技術会、計測自動制御学会、日本ロボット学会、国際交通安全学会、日本機械学会。

ISBN:9784910558035
出版社:科学情報出版
判型:A5
ページ数:252ページ
定価:4200円(本体)
発行年月日:2021年09月
発売日:2021年09月24日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:UY