日本語の文字と表記
学びとその方法
著:尾山 慎
内容紹介
日本語研究を始めるのに必要な、文字論・書記論・表記論の違いをはじめとする基礎理論を体系的に解説。
文字の誕生からSNSでの表記まで、漢字・平仮名・片仮名の歴史と言葉の多様性を紹介。
目次
はじめに
第一章◉日本語の文字表記の〝多様さ〟とその歴史的要因
Ⅰ 日本語の文字表記の実情と歴史
1 現代日本語表記の特徴
2 日常生活と言葉、文字表記
3 歴史的研究にあたって
4 中国語との交渉
Ⅱ 漢文訓読と日本語
1 「訓読」とは[翻訳と訓読/訓読と漢字]
2 漢文訓読の現状・過去とその価値
3 訓読とメソッド化
4 術語を巡る問題—「訓読」とは
コラム1 論理的整合性に安心したい
第二章◉文字論・表記論・書記論へ
Ⅰ 文字・表記・書記の違いと研究する視点
1 文字とは
2 文字論と表記論・書記論
3 社会における文字の始まりとその役割
4 表記論・書記論
5 表記論のある一例
6 読み手・書き手・分析者[読み手と書き手/分析する人]
Ⅱ 文字の種類と記号論
1 表語と表意[表語文字か、表意文字か/術語「表語文字」の限界]
2 古代エジプト人と文字—記号の記号か、あるいは〝真実〟か
3 記号論とデザイン性を巡る評価のズレ
Ⅲ 字の形を定義する
1 字形と字体を巡る諸問題—書体・書風・フォント[字形・字体の一般的な概念規定/学習による紐付け/書体とは/漢字の五体とフォント]
コラム2 『声の文化と文字の文化』(W・J・オング)
第三章◉言語学的なアプローチと方法論
Ⅰ 言葉の基本的な特徴と文字・表記
1 言葉の働きとその研究[言葉とは、対象のパッキング/「近代言語学の父」と一般言語学/文字は即ち言葉……か?—字音・字義・字訓/意味とは/文字とシニフィアン・シニフィエ]
Ⅱ 個別と一般、歴史と現在
1 抽象と具象[抽象と具象という認知の両輪/ラングとパロール/あらためて、共時態論と通時態論/通時的研究に立ちはだかる壁]
コラム3 科学の申し子達と宗教リテラシー
第四章◉漢字の使い道と日本語、そして社会
Ⅰ 漢字の始まりとその特性
1 古代中国の漢字事情
2 日本の漢字の使用実態と諸問題[漢字の伝統的分類/表語の用法/表音の用法/表意の用法/表形の用法]
3 喚起性の強さ—二次的表語性
Ⅱ 社会における文字・表記とその実態
1 社会と文字・表記[社会との関係性/日本社会の変化と文字表記/現代日本社会と文字表記/常用漢字の概要/義務教育と漢字/明日から漢字をやめるとしたら/漢字に頼っていること、漢字に縛られていること]
2 印刷と文字の社会性[手書き反復練習の是非/日本における印刷の歴史/規範と印刷]
コラム4 中島敦『文字禍』
第五章◉仮名のはなし
Ⅰ 「仮名」の成立とその定義
1 「仮名」とは[漢字の一用法かそうでないか/現代の分析と、〝当時〟の把握/「仮名」が抱える様々なこと/平仮名・片仮名の定義]
2 〝セット〟としての認識[古典文学作品という手がかり/草仮名/文字セットとしての成立]
Ⅱ 万葉仮名
1 万葉仮名の由来
2 万葉仮名解読
3 古代の音韻と万葉仮名
4 万葉仮名解読—引き続き
5 実に多彩な漢字の使い方
6 万葉仮名、平仮名、片仮名の変化を巡る議論
7 文字表記と文章文体の関係[表記体という概念/仮名のセットと日本語の文章/奈良時代の万葉仮名セット意識]
コラム5 不立文字
Ⅲ 平仮名・片仮名、そして仮名遣い
1 平仮名の歴史と役割概観[平仮名の〝成立論〟/鍵は九世紀だが/『土左日記』の平仮名/平仮名が用いられる媒体]
2 片仮名の歴史概観[〝仮名を作った人〟/片仮名の出来方と機能/『方丈記』の片仮名]
3 仮名遣いのはなし[現代仮名遣い/仮名遣いという術語自体のゆれ]
コラム6 文字の聖性—梵字の宇宙
第六章◉SNSメディアにみる通俗的な文字表記
Ⅰ 新しいメディアと位相
1 「打つ」と「書く」
2 メディアと文字・表記
3 小文字表記の実態[小文字表記の読み取られ方/小文字表記—「機能」と、書く理由/「位相表記」として/こういった通俗的表記の展望]
Ⅱ 現代日本語文字表記の新たな相棒
1 絵文字の世界—現代にリバイバルか[古代の絵文字/ピクトグラムと文字の違い/対応する言葉の単位/絵文字と顔文字/絵文字の機能分類/絵文字の現状と未来/絵文字の未来、その最新の事情(二〇二一)]
2 (笑)の世界[その起源/(笑)の影響範囲/(笑)の機能ふたつ/(笑)の機能の、さらにもうひとつ/wwwの便利さ]
コラム7 文化・文明と相対的な評価
終章◉日本語文字表記論の未来
1 文字表記論研究の未来のために、良著を読む
2 実存主義と構造主義そして言語・文字表記研究[実存主義と構造主義とは/両方の目をもつ/それぞれの限界点/実存から構造の発見、そして構造の組み換え]
3 構造主義的、理論的なアプローチ[個々の意思や指向と構造主義的な考え方/文字表記論の構造性]
4 通時論と共時論のそれぞれの限界
5 目的論的研究との向き合い方[目的論とは/目的論と自然科学/「神の所業」と科学]
6 研究の目的とどう位置づけられるかの模索
7 術語の再検討は、常に〝継続審議事項〟
8 科学の〝目指すところ〟と〝私〟を研究へと向かわせるもの
おわりに
主要参考文献
主要語句説明
音韻▼音声▼共時態(論)▼字形▼字体▼シニフィアン▼シニフィエ▼書記▼書体▼書風▼通時態(論)▼パロール▼表意▼表音文字とその用法▼表記▼表記体▼表形用法▼表語文字とその用法▼フォント▼文字▼ラング