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「言論統制」の近代を問いなおす

検閲が文学と出版にもたらしたもの

編:金 ヨンロン
編:尾崎 名津子
編:十重田 裕一

紙版

内容紹介

いま、検閲について考える意義はどこにあるのか。

2000年代以降、新資料の発見が続き研究環境は劇的な変化をとげている。
戦前から占領期にかけて、検閲する側はどのように行い、受ける側はどう乗り越えようとしたのか。
検閲のプロセスを丁寧にたどることで、両者を対立的に捉える従来の図式を解体し、
さまざまな立場の思惑が複雑に絡みあう実態を暴く!

目次

はじめに
 ―私たちは「残骸の向こう側」を見ている●尾崎名津子・金ヨンロン・十重田裕一

1 戦前・戦中期の出版警察体制から図書館への影響
   ―県立長野図書館、静岡県立中央図書館の事務文書に見る検閲制度運用の一側面●牧 義之
 一 警察によって差し押さえられた出版物
 二 書庫に忘れられた事務文書(県立長野図書館)
 三 廃棄予定だった事務文書(静岡県立中央図書館)
 四 図書館史、文書資料を繋ぎ合わせて見えてくること
 五 記録を読み、活用すること

2 大衆の〈国民〉化に影響を与えた戦時下の児童文化統制
   ―佐伯郁郎と「児童読物改善ニ関スル指示要綱」●村山 龍
 一 大衆から〈国民〉へ
 二 佐伯郁郎という人物
 三 「指示要綱」の作成はいかにして始まったか
 四 「指示要綱」の成立過程に関する発見
 五 「指示要綱」から削除された「推奨制度」
 六 「今次聖戦」という文言の削除と『赤い鳥』への共感
 七 「指示要綱」とは何だったのか

3 岩波文庫に対する検閲処分●尾崎名津子
 一 岩波文庫の理想と現実
 二 岩波文庫に対する処分
 三 出版社を起点とした検閲研究の可能性

4 占領期における検閲主体の読書行為
   ―東京裁判言説の検閲内容をめぐって●金ヨンロン
 一 検閲主体の読書行為はいかに捉えられてきたか
 二 東京裁判と検閲という視座
 三 検閲主体の揺れ:東京裁判を描いた文学―中山義秀「迷路」を例に―
 四 反復される状況と思想的課題
 五 検閲主体とその読書行為を捉えなおす

5 在日朝鮮人文学と自己検閲
   ―GHQ検閲と在日朝鮮人コミュニティーの狭間にいる「編集者・金達寿」の葛藤を考える●逆井聡人
 一 「自己検閲」の範囲
 二 金達寿が回想する「検閲の苦労話」にある矛盾
 三 在日朝鮮人に対する検閲に関する先行研究
 四 金達寿の自己検閲
 五 視線の内面化
 六 精神史としての「自己検閲」と今後の展開

〈ラウンド・テーブル〉見えざる〈統制〉に近づくために
 1 複雑な検閲プロセス―従来の分かりやすい図式を解体する 
 2 論じる側の政治性と時代が反映される
 3 「規範の内面化」とは?
 4 検閲者の「読み方」
 5 大衆も検閲する
 6 世界情勢によって変わる検閲の規範
 7 個人に焦点を絞った検閲研究の可能性
 8 コミュニティの内部圧力による自己検閲・自主規制
 9 書き手に及ぶ身の危険
 10 異なる権力の共同歩調―佐伯郁郎と阪本越郎
 11 「統制」の中の「推薦」制度
 12 遡及的・事後的検閲
 13 リアル『図書館戦争』
 14 著作権との関係
 15 検閲がテクストに何を残したのか
 16 岩波文庫がもつ特異性
 17 図式に捉われない検閲研究へ

英文要旨
執筆者紹介

著者略歴

編:金 ヨンロン
1984年生。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
現在、早稲田大学高等研究所講師。
著書・論文 『小説と〈歴史的時間〉-井伏鱒二・中野重治・小林多喜二・太宰治-』(世織書房、2018年)、「治安維持法体制下における中野重治の転向五部作と伏字問題ー「小説の書けぬ小説家」を中心にー」(『日本文学』64巻11号、2015年11月)、「「××が始まつてから」ー小林多喜二『党生活者』論」(『昭和文学研究』第72集、2016年3月)、「法と文法-井上ひさし『夢の痂(かさぶた)を中心に-」(『社会文学』48号、2018年8月)、「戦争裁判が甦る契機-木下順二『神と人とのあいだ』を手掛かりに-」(『日本文学研究ジャーナル』第9号、2019年3月)など。
編:尾崎 名津子
1981年生。
慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。
現在、弘前大学人文社会科学部講師。
著書・論文 『織田作之助論 〈大阪〉表象という戦略』(和泉書院、2016年)、『織田作之助女性小説セレクション 怖るべき女』(編著、春陽堂書店、2019年)、「待たれる「乞食学生」―『若草』読者共同体と太宰治」(小平麻衣子編『文芸雑誌『若草』 私たちは文芸を愛好している』翰林書房、2018年)、「木村友祐「イサの氾濫」の改稿―フラットな破局の後を生きる生―」(『日本文学研究ジャーナル』第9号、2019年3月)など。
編:十重田 裕一
1964年生。
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
現在、早稲田大学文学学術院教授。
著書 『岩波茂雄 低く暮らし、高く想ふ』(ミネルヴァ書房、2013年)、『占領期雑誌資料大系 文学編』全5巻(共編著、岩波書店、2009~10年)、『検閲・メディア・文学 江戸から戦後まで』(共編著、新曜社、2012年)、Literature Among the Ruins, 1945-1955: Postwar Japanese Literary Criticism (共編著、Lexington Books、2018年)、『東京百年物語』全3冊(共編著、岩波書店、2018年)など。

ISBN:9784909832115
出版社:花鳥社
判型:A5
ページ数:232ページ
価格:3200円(本体)
発行年月日:2019年09月
発売日:2019年09月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KNTP