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素粒子読本

初版 オンデマンド版

著:樋口 正人
編:小林 悌二
編:齋藤 曉

紙版

内容紹介

本書の特徴は,物質を構成する「素」の素を追求したい若い人達が,自然界の基礎にある階層性の探求がミクロ世界の基礎構造の解明へと展開していく現代素粒子物理学の流れの中へ,自然な構成を通して導かれるよう工夫されていることである。基礎となる電磁気学,相対性理論,量子理論の主要な骨格が前半で導入され,後半の主テーマである素粒子構造の追及への実験・理論の取り組みと,クォークを基とする美しい対称性がどのように探究され,構成されるかを有機的な展開で示される。必要な範囲の数学処方が丁寧に説明され,随所に著者長年の教育工夫が反映されている。読本という読みやすい形で素粒子物理学の世界を見通すことのできる本書は研究を志す人達のみならず,この世界の概観を知りたい多くの人達に大きなガイド役となるに違いない。

[はじめに]
素粒子物理学の歴史は,新しい思考と発見の歴史であった。「素」のものを求めて,ギリシア時代に端を発する原子の考え方や,トムソンによる電子の発見,湯川秀樹の中間子論の展開,リヒター・ティンなどによる新粒子ジェイ・プサイの発見など枚挙に暇がなく,歴史的には膨大な事項の蓄積がある。

本書では,数式は最小限とし,可能な限り言葉による説明を試みた。また,歴史上の事項の解説にページをさき,多少話題が古くなった部分もあるが,素粒子・高エネルギーに関心をもつものにとっては教訓的なものを含んでいるので,そのまま残した。

素粒子に関する話題は,大型加速器の稼動に伴い,事欠かない時代になってきた。2008年9月に稼動を開始したCERNの大型ハドロン衝突型加速器LHCでの成果が待たれる。この加速器では,現在広く受け入れられている標準理論の検証,宇宙の初期に粒子に質量を与えたといわれるヒッグス粒子の発見*とその波及効果,対称性から存在を予言されている超対称粒子の発見,強い力・電磁力・弱い力を統一的に説明できる超対称大統一理論の片鱗なりとも見えてこないかなどなど,その成果が大いに期待される。

* 補遺:その後2012年7月にヒッグス粒子はLHCで発見された。

[本書成立の経緯について]
本書は素粒子物理学を専門とする著者樋口正人氏が,大学における長年にわたる研究を背景とした講義,セミナー,講話をもとに,素粒子物理学の世界を,その基礎から現在の問題までの広範な話題について関連分野の発展と必然的関係に丁寧に触れながら非常に読みやすい形に構成して著したものである。

素粒子物理の発展の歴史,基礎となる数学,電磁気学,相対論,原子・原子核物理学などを基礎の準備内容として解説しながら,理論分野と実験分野の絡み合いについて丁寧に触れて,素粒子世界の理解に寄与してきた数多くの新概念の登場についてそのいきさつ,意味,果たして来た役割を詳しく記述している本書は,この分野の勉強,研究にこれから入ろうとする人にとって,素粒子世界理解の流れを概観し,その概要の把握が無理なくできるもってこいの内容と組み立てになっている。…

目次

はじめに
本書成立の経緯について
第1章 物は何からできているか
§1.1 素粒子
§1.2 物の根源と大きさ
§1.2.1 疑いなく存在するのは人間
§1.2.2 ものの根源の変遷
§1.3 微小な世界
§1.3.1 階層構造
§1.3.2 細胞,分子,原子
§1.3.3 原子核と電子
§1.3.4 クォークとレプトン
§1.4 巨大な世界
§1.5 ものの最も根源となるものは
§1.5.1 真空
第2章 素粒子たちは力をおよぼし合う
§2.1 相互作用は4つある
§2.2 力,場,媒介粒子
§2.2.1 電気力
2.2.1.1 媒介粒子
2.2.1.2 重力
2.2.1.3 場と媒介粒子
§2.3 力はどこまで届くのだろうか
§2.4 電磁相互作用
§2.5 強い相互作用
§2.6 弱い相互作用
§2.7 重力
§2.8 反応の断面積
§2.9 極微の世界の単位は何だろう
§2.9.1 エネルギー
§2.9.2 質量
§2.9.3 運動量
§2.9.4 自然単位系
第3章 素粒子を分類する
§3.1 分類の仕方
§3.2 スピンは整数か半整数か
§3.3 粒子の役割はどうであるか
§3.3.1 力を媒介する粒子
§3.3.2 物質を形成する粒子
3.3.2.1 クォーク
3.3.2.2 レプトン
§3.3.3 クォーク組成によるハドロンの分類
§3.3.4 質量の起源となった粒子
§3.3.5 ゲージ原理
§3.3.6 質量はヒッグス機構とともに
3.3.6.1 カイラル対称性の破れ
3.3.6.2 物質の質量
第4章 相対論のはじめ
§4.1 ガリレイ変換とローレンツ変換
§4.1.1 ガリレイ変換
§4.1.2 真の変換は何であろうか
§4.1.3 アインシュタインの特殊相対性原理
§4.1.4 ローレンツ変換
§4.1.5 ローレンツ・フィッツジェラルドの短縮
§4.1.6 時間の遅れ
§4.2 4元ベクトル
§4.2.1 斜交座標系
§4.2.2 世界線
§4.2.3 4元ベクトルの成分
§4.2.4 4元ベクトル
§4.3 4元ベクトルのスカラー積
§4.3.1 スカラー積
§4.3.2 計量テンソル (metric tensor)
§4.4 運動量とエネルギー
第5章 続相対論的・量子論的粒子
§5.1 運動方程式
§5.1.1 相対論的運動方程式
§5.1.2 種々の物理量の関係
§5.1.3 量子論的運動方程式
§5.2 相対論的波動方程式
第6章 素粒子の世界を探るには
§6.1 素粒子の世界を探る
§6.1.1 高エネルギーの必要性
6.1.1.1 物質の分解
6.1.1.2 新粒子の生成
6.1.1.3 分解能の向上
§6.2 素粒子の検出
§6.2.1 荷電粒子
6.2.1.1 電離,励起
6.2.1.2 チェレンコフ光
6.2.1.3 シャワー
§6.2.2 中性粒子
§6.3 素粒子を見る——測定器の種類
§6.3.1 (A) 電気的な検出
§6.3.2 (B) 光による検出
§6.3.3 (C) 飛跡による検出
第7章 粒子の加速
§7.1 加速原理
§7.2 加速器の種類
§7.2.1 コッククロフト・ウォルトン (Cockcroft-Walton) 型
§7.2.2 ヴァンデグラフ (Van de Graaff) 型
7.2.2.1 タンデム・ヴァンデグラフ型
§7.2.3 サイクロトロン (Cyclotron)
7.2.3.1 ビーム集束
7.2.3.2 シンクロサイクロトロン (Synchro-cyclotron)
§7.2.4 ベータトロン (Betatron)
7.2.4.1 ベータトロン振動
§7.3 シンクロトロン(Synchrotron)
§7.3.1 概要
§7.3.2 位相安定の原理
§7.3.3 高周波加速
§7.3.4 強集束の原理
§7.4 線形加速器
§7.5 衝突型加速器
§7.5.1 ルミノシティ
第8章 マクスウェル方程式の美しさ
§8.1 いくつかのベクトル演算
§8.2 マクスウェル方程式
§8.3 ゲージの凍結
§8.3.1 クーロンゲージ (Coulomb gauge)
§8.3.2 ローレンツゲージ (Lorentz gauge)
§8.4 マクスウェル方程式の4元ポテンシャル表示
第9章 ディラック方程式を解く
§9.1 スピノル
§9.2 スピン行列
§9.3 ディラック方程式
§9.4 ディラック方程式の解
§9.4.1 静止状態の粒子
§9.4.2 ディラック方程式の一般解
第10章 ?,?,?変換の対称性
§10.1 物理法則の不変性
§10.2 ???定理
§10.3 パリティ変換(?変換)
§10.3.1 パリティの固有値
§10.3.2 パリティ非保存の問題
§10.4 荷電共役(荷電反転,? 変換)
§10.5 ??変換
§10.6 時間反転(?変換)
§10.7 中性子,原子による ? 変換の検証
第11章 クォーク 仮想から実在へ
§11.1 坂田モデル
§11.2 クォークモデル
§11.2.1 クォークモデルの考え方
§11.2.2 群
11.2.2.1 回転群
11.2.2.2 ユニタリー群
§11.2.3 中間子族
11.2.3.1 桜井の考察
§11.2.4 重粒子族
§11.3 カラー(color)のSU(3)
§11.3.1 カラー荷
§11.3.2 相互作用の強さ
§11.3.3 カラーと強い相互作用
§11.3.4 シールド効果
第12章 新世代のクォークと実験的検証
§12.1 第2世代,第3世代のクォークの発見
§12.1.1 第2世代クォーク
12.1.1.1 背景(あるとすれば)
12.1.1.2 ?/Ψ の発見
12.1.1.3 なぜチャームであるか
§12.1.2 OZI則(大久保 − ツバイク − 飯塚規則)
§12.1.3 チャーム・クォークの質量とチャーモニウム
§12.2 ?,?クォーク
§12.2.1 ?クォーク
§12.2.2 ?クォーク
§12.3 時間的光子による粒子発生
§12.4 電子・陽電子衝突反応におけるハドロン発生
§12.5 クォークとレプトンに第4世代はあるか
§12.6 標準モデルによる計算
§12.6.1 ?
§12.6.2 ?,?の質量
§12.6.3 世代(generation)数
12.6.3.1 加速器実験
12.6.3.2 その他の実験
第13章 負エネルギー粒子
§13.1 発端
§13.2 ディラックの空孔理論
§13.3 電荷密度,電流密度
§13.4 負エネルギー状態
§13.5 反粒子を含むファインマン図
§13.6 反粒子のアイソスピン
§13.6.1 アイソスピン
§13.6.2 反粒子のアイソスピン
13.6.2.1 クォークの合成系
§13.7 この宇宙の反粒子は何処へ行ったか
第14章 回転運動とスピン
§14.1 軌道角運動量
§14.2 スピン
§14.3 角運動量の合成
§14.3.1 全角運動量
§14.3.2 二つの状態の合成
第15章 ゲージ変換とは
§15.1 不変性,対称性
§15.2 ゲージ原理
§15.3 ラグランジアン
§15.4 電荷の保存
§15.5 局所ゲージ変換
§15.6 場と運動方程式
§15.7 U(1)対称性
第16章 標準理論(電弱統一理論)
§16.1 標準理論の発展
§16.1.1 発端
§16.1.2 弱アイソスピン
§16.1.3 U(1)? ⊗ SU(2)? とゲージボソン
§16.2 標準理論の粒子
§16.3 電弱統一理論(標準理論)
§16.4 中性ゲージボソン
§16.5 対称性の破れ
§16.5.1 大域的対称性の破れ
16.5.1.1 あからさまな対称性の破れ
16.5.1.2 自発的対称性の破れ
§16.5.2 ヒッグス機構
§16.5.3 質量0の粒子が質量をもつ例
第17章 標準理論に続くもの
§17.1 大統一理論
§17.2 陽子は崩壊するか
§17.3 大統一エネルギー
§17.4 階層性の問題
§17.5 超対称性理論
§17.5.1 暗黒物質
索引
用語索引
人名索引
談話
談話1 物質の根源
談話2 時空の関係
談話3 ルミノシティの実用単位
談話4 パリティの固有値

著者略歴

著:樋口 正人
1940年(昭和15年),宮城県に生まれる。1965年,東北大学大学院理学研究科原子核理学専攻修士課程修了。東北大学理学部助手を経て,1967年より東北学院大学工学部に勤務。1986年,東北大学から理学博士号の称号を授与される。1988年より東北学院大学工学部教授。その後,東北理工専門学校理事,高エネルギー加速器研究機構客員教授を兼任。長年,一貫して理論・実験の両面から素粒子物理学の研究に尽力,特に泡箱素粒子飛跡写真の解析プログラム構築等にも寄与,また教育を通して学生の素粒子・高エネルギー物理学への関心や研究意欲を高め,若手研究者や技術者の裾野を広げることに力を注いだ。2007年東北学院大学を定年退職。東北学院大学名誉教授。2019年6月没。

ISBN:9784909624055
出版社:やまなみ書房
判型:A5
ページ数:413ページ
定価:2838円(本体)
発行年月日:2020年10月
発売日:2020年10月10日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PHP