子会社配当の非課税措置と子会社株式の譲渡を組み合わせた税務上の譲渡損失を創出する租税回避への対応として、令和2年度税制改正において、子会社配当の額につき益金不算入とされた金額相当額を子会社株式の帳簿価額から減額する特例(子会社株式簿価減額特例)が創設されました。
子会社株式簿価減額特例(以下「本特例」ということがあります)は、租税回避に対応する観点から設けられた制度ではありますが、規定の文言上、法人において租税回避目的があることがその要件とされているものではありません。すなわち、経済実態を伴わない税務上の損失が創出されるような場面を念頭に、具体的な要件が規定されており、それらの要件が満たされる場合には、原則として、本特例が適用される仕組みとなっています。そのため、1事業年度に一定規模の配当を受けた場合には、租税回避目的の有無にかかわらず、本特例の要件を検討することが必要となります。
また、配当が、支配関係発生後に生じた利益を原資とすると考えられるような場合などには、本特例を不適用とし、また、配当のうち支配関係発生後に生じた利益を原資とすると認められる部分については、本特例の対象から除く仕組みが設けられている一方で、グループ法人間の操作により、本特例の適用を回避するような場面を念頭に、様々な適用回避防止規定が設けられており、本特例の適用があるか否かの検討や、本特例の適用がある場合の処理は、難解で複雑なものとなっています。
ところで、本特例の適用の前提となる子会社配当の非課税措置のうち、外国子会社配当益金不算入制度については、令和2年度税制改正において、連結納税制度の見直し(グループ通算制度の創設)に伴う改正が行われているところです。また、外国子会社配当に係る外国源泉税については、令和3年度税制改正において、外国子会社合算税制との二重課税調整規定の適用を受ける場合の損金算入や外国税額控除の見直しが行われているところです。
本書は、近年、重要な改正が行われている国際的な配当をめぐる税務を理解するための一助となることを願って、〈1〉外国子会社配当益金不算入制度、〈2〉子会社株式簿価減額特例、〈3〉外国子会社配当に係る外国源泉税の取扱いの各テーマについて、条文を整理し、詳細な解説を加えました。具体的には、条文ごとに、①ポイント、②解説、③用語の意義、④趣旨、⑤関係法令、⑥通達、⑦別表、⑧計算例、⑨Q&Aなどのサブ・セクションを設け、理論と実務の観点から、解説を加えました。また、直感的な理解や複雑な条文の理解のため、できる限り図表を添えるよう心掛けました。国際税務に携わる皆さまに、本書が少しでもお役に立てれば幸いです。
脱稿後の令和3年12月10日に、「令和4年度税制改正大綱」が公表されました。本書に関連する内容については、「令和4年度税制改正大綱」と題するサブ・セクションを設けて解説していますが、政令公布前の情報に基づく解説となりますことをご了承ください。