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寺田寅彦「線香花火」「金米糖」を読む

他解説:松下貢
他解説:早川美徳
他解説:井上智博

紙版

内容紹介

「ねえ君、不思議だと思いませんか」。雪の研究で知られる中谷宇吉郎がまだ学生だった頃、寺田寅彦がそう問いかけた火花の複雑な分岐模様。そして、自身がペンネームにするほど愛着のあった金米糖の角(つの)の成長。本書は、寺田寅彦の代表的な随筆である「線香花火」と「金米糖」を通して、それらの科学研究が寅彦の時代から現代にかけてどのように受け継がれ、歴史的に解明されてきたかを専門的な立場からそれぞれ解説します。同時に、寅彦のそうした着眼点が時代にいかに先駆けていたかを、複雑系科学の立場から総合的に俯瞰します。また、これらの小品が収められた「備忘録」という随筆全体を通した、寅彦の当時の内面や背景についても文学的観点から捉えていきます。
線香花火の燃焼に火花の音楽を味わい、金米糖の生成に生命の起原と営為を透かし見た寺田寅彦。そこには、当時愛読していたローマの詩人哲学者ルクレティウスや、師・夏目漱石の存在が見え隠れします。口絵にはその関係がうかがえる貴重な資料写真や、線香花火と金米糖の実験写真も収載。門下の中谷宇吉郎と福島浩による線香花火と金米糖の解説記事も付録に添え、彼らが寅彦と取り組んだ当時の研究風景も紹介します。寺田研究室の出発点であり、寺田物理学の真骨頂ともいえる、近代西洋の後追いでない日本ならではの科学研究の醍醐味を、本書を通して味わってみてください。

「彼は研究者としての地歩を固めるにつれて西欧追随のこの風潮に飽き足らなくなり、全く独自の視点で自然や日常身辺に見られる現象に注目するようになっていった。その具体例が金米糖であり、線香花火だったのである。(中略)寅彦はもしかしたら自然や日常身辺で起きるいろいろな現象をまず文学者の目で広く捉え、次に科学者の目で深く理解しようとしたのではなかろうか。ここに師と敬愛する漱石の影響を見ようとするのは考え過ぎであろうか。」(本書「まえがき」(松下貢)より)

目次

(口絵には寺田寅彦宛夏目漱石絵葉書や金米糖・線香花火の実験写真など多数収録:12ページ)

●まえがき

●備忘録
(仰臥漫録/夏/涼味/向日葵/線香花火/金米糖/風呂の流し/調律師/芥川龍之介君/過去帳/猫の死/舞踊)(原文と注)
吉村冬彦

●寺田寅彦の科学に見られる先見性(松下貢)

●金米糖の研究をめぐって(早川美徳)

●線香花火の不思議と研究について(井上智博)

●寺田寅彦「備忘録」に見る未来への胚子(川島禎子)

●付録
金米糖 Konpeitô(寺田寅彦)
金平糖(福島浩)
科学物語 線香花火のひみつ(中谷宇吉郎)
線香花火(中谷宇吉郎)

寺田寅彦 略年譜

著者略歴

他解説:松下貢
1943年生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学博士課程修了。理学博士。日本電子開発部、東北大学助手、中央大学教授を歴任。中央大学名誉教授。専門は複雑系科学。主な編著書に、『統計分布を知れば世界が分かる―身長・体重から格差問題まで』(中公新書)、『フラクタルの物理Ⅰ・Ⅱ』『物理学講義』シリーズ『物理数学(増補修訂版)』(裳華房)、『生物に見られるパターンとその起源』(東京大学出版会)などがある。趣味は簡単な肴を作り、ハタハタ寿司、豆腐のもろみ漬けなどの発酵食品はネットで取り寄せ、全国各地の地酒で家飲みすること。
他解説:早川美徳
1960年、岐阜県奥飛騨生まれ。東北大学大学院工学研究科電子工学専攻修了。工学博士。東北大学助手、東北大学准教授を経て、現在、東北大学データ駆動科学・AI教育研究センター教授(同センター長)。専門は非平衡系のパターン形成や動物の群れなどの集団動力学。主な編著書に『数理思考演習』(共立出版)がある。本書で触れた金米糖についての研究論文は、日本物理学会英文論文誌(JPSJ)の注目論文(Papers of Editors’ Choice)に選ばれている。
他解説:井上智博
1980年、福岡県生まれ。九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門准教授。博士(工学)。東京大学大学院修了後、助教、特任准教授を経て現職。ロケットや航空機のエンジン内部の熱流動を研究しながら、線香花火など身の回りの美しい現象を趣味で探究している。

ISBN:9784908941405
出版社:窮理舎
判型:4-6
ページ数:192ページ
定価:2300円(本体)
発行年月日:2023年08月
発売日:2023年08月01日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ