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寺田寅彦『物理学序説』を読む

著:細谷暁夫
原案:寺田寅彦
原案:中谷宇吉郎

紙版

内容紹介

夏目漱石の高弟として多くの名随筆を残した寺田寅彦は、物理学者としてもスケールの大きい体系だった思想をもっていました。そのエッセンスをまとめたものが、今から百年前に書き起こされた『物理学序説』という未完の集大成です。本書は、“物理学者 寺田寅彦”の方法序説ともいえる『物理学序説』を、現代物理学の視点から新たに読み解いていきます。
また対談では、寅彦の物理学への思想の背景にあった漱石との関係などを、文学や歴史の観点から探っていきます。『物理学序説』原文および注釈に加え、門下の中谷宇吉郎による後書などの附録も充実させて収載。物理学を学ぶ人、研究する人、それぞれが自身の物理観を育て、反省する上での格好のビタミン剤となる書です!

「現代の理論物理学は、高度に数学化されている。学問の発展の段階では、その数学化が威力を発揮してきたことは否定できないし、実際に一般相対性理論では大成功をおさめた。肌感覚では一九八〇年代からその傾向が極端になり、かつやり尽くされたように思うが、そう思うのは私だけではないようだ。ここで一旦立ち止まり、集団思考から社会的距離をとり、自然を直視して、数学の言葉でなく自然言語で物理を語り、研究の新しい芽を探してみてはどうだろうか?
一方、実験も大規模になり長期間を要する「事業」へと変貌して久しい。そこには、個人の発想を生かすチャンスは少なくなる。それについて悩む若い研究者も多い。その中で自分の頭で考えて試してみたい人たちには寅彦が闇夜の道を照らす行灯になると思う。」(本書「はしがき」より)

目次

●はじめに
●寺田寅彦『物理学序説』を読む
(緒論:学問の起源、言語と道具/哲学と科学/自己と自己以外/物質科学と生物科学/物理学―物質科学の根柢としての/数学との関係 物理学の対象:物理学/物理学の対象/実在/感覚/数と空間時間/物質とその性質/因果律/偶然 物理学の目的とその方法:物理 まとめ 付記:執筆計画について 『物理学序説』執筆計画メモ:原文)
●物理学と文学の対話―『物理学序説』をめぐって―(千葉俊二氏との対談)
●物理学序説(寺田寅彦著) 
●附録・後書(自然現象の予報/事実の選択/偶然/後書:中谷宇吉郎)
●注釈
●あとがき
●寺田寅彦 略年譜
●参考文献

著者略歴

著:細谷暁夫
1946年生まれ。東京大学大学院物理学専攻修了。理学博士。大阪大学理学部物理学科助手、講師、助教授、広島大学理論物理学研究所教授、東京工業大学理学部物理学科教授を歴任。東京工業大学名誉教授。専門は宇宙論・量子力学。主な著書に『物理の基礎的13 の法則』『時空の力学―一般相対論の物理』『量子コンピュータの基礎(第二版)』『解析力学』などがある。趣味は詩、短歌、俳句、絵画。大の猫好きである。
原案:寺田寅彦
1878~1935年。物理学者、随筆家。東京帝国大学理科大学教授、航空研究所兼任、理化学研究所研究員、東京帝国大学地震研究所所員を歴任。熊本第五高等学校時代に夏目漱石に俳句の指導を、田丸卓郎にバイオリンの影響を受ける。ミクロからマクロまで多くの自然現象に深い関心を持ち、複雑系や形の科学の流れを先取りするスタイルで研究を進めた。物理の本質を見抜く洞察と科学的精神はルクレチウスを彷彿する真骨頂である。豊かな表現力で創作された数々の随筆作品は日本文学でも高く評価されている。これらの衣鉢は、中谷宇吉郎をはじめ、藤岡由夫、矢島祐利、藤原咲平、坪井忠二、平田森三、宇田道隆、渡辺慧といった多くの門下に受け継がれた。主な著書に『冬彦集』『万華鏡』『物質と言葉』などがある。郷里の高知県高知市には「高知県立文学館 寺田寅彦記念室」や「寺田寅彦記念館」がある。
原案:中谷宇吉郎
1900~1962年。物理学者、随筆家。東京帝国大学理学部物理学科で寺田寅彦に教えを受け、卒業後は理化学研究所寺田研究室の助手を務めた。イギリス留学を経て、北海道帝国大学理学部教授、北海道大学理学部教授を歴任。財団法人農業物理研究所や映画プロダクション「中谷研究室」も創始した。人工雪の開発にも大きな成果を上げ、凍上や着氷、雷、霧といった実用的な研究でも優れた結果を残している。卓抜な着想と多くの点で師の寺田寅彦の人生に酷似しており、専門に関する研究だけでなく、数々の随筆や論説も書いた。主な著書は、『冬の華』『樹氷の世界』『雪』『科学の方法』など多数。生地の石川県加賀市には「中谷宇吉郎 雪の科学館」がある。

ISBN:9784908941245
出版社:窮理舎
判型:4-6
ページ数:312ページ
定価:3200円(本体)
発行年月日:2020年12月
発売日:2020年12月31日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PH