紫草
著:冨貴高司
内容紹介
『向日葵の種』に続く冨貴高司の第2歌集。350首を収載。「熾叢書第100集」(沖ななも代表「熾の会」)。丹後の小さな出版社の多島海社刊。
収載歌全350首を通じて、現代における稀有な愛を万葉風の物語として構成している。
「序歌」には、各章の代表的な歌1首が掲出され、歌集全体への目次的、索引的な案内となっている
春の罠 霞みたつみつばつつじの花陰に春の罠なら欺かれたし
あねとおとうと 聞きわけのなき弟の泣き言をさらりとはじく姉のやは肌
まぼろしの旅 飛ぶ舟に舵は備へずふたりゆく由良の戸よりも広き宇宙を
和多都美の宮 いつしらに心の関を破りたる想ひはじめて空はさびしき
海の切り岸 女と来て滾る想ひを告ぐるときわが切り岸は海へ迫り出す
しづかの社 姉に問ふ椎の実ひろふ境内に椎の葉に盛る飯(いひ)のわけはと
万葉の杜 万葉のきみの纏へるうたごころ開きてゆけば眩き裸身
紫野 逢ひ見しは一生(ひとよ)のをはり蜻蛉の夕べを照らせ海の眉月
むらさきのきみ きみのみぞ知る潜り戸の閂を外しおきしに朝のしらじら
祝祭 標野にてかたみにゆるす束の間をもつれて結びひとつ実とな
る
のちの世に 歌に生き歌に死なむよこの後はこころはきみに澄みゆくのみ
に
著者の冨貴高司は、若い日に『死霊』の作者埴谷雄高に出会い、以来、作家を志してきた。また、谷川健一の民俗学にも遭遇している。短歌の作歌歴は沖ななも代表の「熾の会」に入会して以降の18年間である。このような著者の経歴から、本歌集『紫草』(むらさき)は、収載歌全350首を通じて、ひとつの物語、ロマンを構成するものとなっている。現代における稀有な愛を、万葉集の気配を帯びた連作歌で綴り、燃えあがるロマンに結実させている。
目次
目次
序歌・・・・・・・・・4
春の罠・・・・・・・・13
あねとおとうと・・・・29
まぼろしの旅・・・・・57
和多都美の宮・・・・・77
海の切り岸・・・・・・93
しづかの社・・・・・・107
万葉の杜・・・・・・・125
紫野・・・・・・・・・137
むらさきのきみ・・・・155
祝祭・・・・・・・・・183
のちの世に・・・・・・207
歌のはじめに・・・・・217
あとがき・・・・・・・220
題字(表紙・中扉とも) 藤 原 瑞 華