中上健次論
著:渡邊英理
内容紹介
中上健次の文学を(再)開発文学の視座から捉え、ポストヒューマンをも射程に収めつつ、複数の方向に開かれた路地の「仮設」性に、脱国家・脱資本を志向する〈路地のビジョン〉=中上思想の可能性の中心を見出す。一見すると古く、停滞しているように見える路地。しかし「それは、状態として見れば停滞であるが、「運動として見れば抵抗である」(竹内好)」。「進歩」や「成長」が、実のところ荒廃や壊滅を意味する現代に、中上健次のアクチュアリティを問い直す、新世代の思想=文学論。
目次
はじめに
第一章 「戦後」/(再)開発文学と「はじまり」─「一番はじめの出来事」
一 「はじまり」と地図
二 〈秘密〉の避難所
三 未必の故意
四 忘却の記憶
五 記憶の身体
六 群れ・雑草・動物
第二章 動物と私のあいだ─「熊の背中に乗って」「鴉」
一 テクストの生態系
二 間にあるもの─動物と言葉
三 まなざしと「死の記号」─動物と「私」
第三章 性愛と争闘─「偸盗の桜」「鬼の話」
一 性・生・政
二 転換の時空─「偸盗の桜」
三 書かれぬ声・群れの女たち─「鬼の話」
第四章 被差別の人類学、賤者の精神分析─「石橋」
一 「問という大岩」
二 路地/部落と(再)開発の文脈
三 路地の「民族誌」と非規範的親族関係(クィア家族)
四 夢の言葉・夢幻能・精神分析
五 夢幻能と性/政治
第五章 (再)開発と「公共性」─「海神」
一 脱国家/脱資本的な社会
二 「無限のエコー」
三 謡曲と神話分析
四 被差別・土地・資本
五 〈路地の公共〉、共有地
六 治癒と「公共性」
第六章 路地・在日・スーパーマーケット─「海神」「石橋」「花郎」
一 「戦後」批判/(再)開発文学
二 在日朝鮮人の「スーパーマーケットの天皇」
三 路地の「一九六八年」
四 「国民」という境界
第七章 媒介者の使命─「葺き籠り」
一 道路・スーパーマーケット・天皇
二 媒介者と侵入者
三 法の内と外
四 媒介の(不)可能性
第八章 生命の縁起、脱人間/人文主義─『千年の愉楽』
一 路地の「モダニズム」/「魔術的リアリズム」
二 資本・貨幣・生命
三 共訳不可能な「生」、「生類世界」
第九章 仮設と雑草─『地の果て 至上の時』
一 仮設、隙間的な時間と空間
二 山林・街道・路地
三 草の葉とことの葉(言の葉・事の葉)
四 群れ、兄たち
五 水の花、雑草の火
註
初出一覧
あとがき
謝辞
細目次
索引