序論――不確実性の時代における記憶と歴史の人類学(風間計博)
一 問題の所在――人類学と史実について
二 相互浸透する二つの記憶形態
三 記憶と歴史の段階論的変遷
四 歴史物語と「喩法」の陥穽
五 不確定な現代世界における「史実性」
六 本書の構成
●第一部 戦争・紛争の記憶と国家
第一章 沖縄シャーマニズムにおける「記憶の倫理」と痛みの民族誌(北村 毅)
一 はじめに
二 あるユタの戦争体験と憑依体験
三 「戦死者を救え」との啓示
四 カミダーリと召命
五 戦死者供養
六 死者の離散と道徳的危機
七 怪異と「苦しみのエコー」
八 「なされるべきこと」と「記憶の倫理」
第二章 遺骨収容活動におけるつながりの辿り方と飛び越え方――戦没者と生者の関係の生成をめぐって(深田淳太郎)
一 はじめに
二 戦没者とつながる二つの方法
三 遺骨との距離を埋める――隣接するつながりを辿る
四 戦没者への到達──最後の一歩を飛び越える
五 焼骨式──集合的戦没者の完成
六 おわりに――集合的記憶と終われない拾骨
第三章 ペリリュー島における太平洋戦争の記憶とモノのエイジェンシー(飯髙伸五)
一 もつれあう太平洋戦争の記憶
二 先行研究
三 ペリリュー島
四 戦争の記憶を喚起するモノの行方
五 すれちがう/絡み合うエイジェンシー
六 むすびにかえて
第四章 記された記憶、刻まれた歴史──台湾東海岸の抗日事件記念碑から考える(西村一之)
一 はじめに
二 統治記録と住民の記憶そして町の歴史
三 「マララウ事件」の利用
四 放置を前にして「英勇」を悼む──清明節の中で
五 おわりに
第五章 九・三〇事件後のインドネシア地方社会と社会的記憶の現在(山口裕子)
一 インドネシア集団的暴力の集合的記憶
二 歴史と記憶のスペクトラム
三 複数の暴力の集合的記憶――第二波、一九六九年ブトン事件
四 第一波、一九六五年の名前のない暴力と流刑地の記憶
五 公定史の呪縛と絡めとられない記憶
第六章 想像の記憶と記憶の創造──インドネシアの博物館展示をめぐる一考察(金子正徳)
一 はじめに
二 インドネシアにおける博物館略史
三 現代インドネシアの博物館における展示の分析――人物ジオラマに注目して
四 インドネシアの博物館展示をめぐる考察
●第二部 移動と定着の記憶
第七章 〈南洋群島〉という植民地空間における沖縄女性の生を辿る――「実践としての写真論」を手がかりに(森 亜紀子)
一 はじめに
二 統計と語りからみる沖縄の人びとにとっての南洋群島
三 ある首里女性のスナップショットを読み解く――移動と遭遇の軌跡
四 南洋育ちの娘たちのポートレイトを読み解く――狭間を生きる
五 おわりに
第八章 ディアスポラの家族史と民族の語り――フィジーの首都近郊におけるヴァヌアツ系少数民族の祖先語りの分析から(丹羽典生)
一 はじめに
二 ヴァヌアツ出身者のフィジーへの定着
三 起源と移転に関する記憶と語りから見えてくること
四 おわりに
第九章 記憶の不安――フィジー・キオア島において「移民」であること(小林 誠)
一 はじめに――「移民」の不安と記憶
二 移住の歴史
三 記憶と見えない不安
四 不安の顕在化とその文脈
五 不安の余地――語りの検討から
五 おわりに――不安と希望
第一〇章 「キーシナリオ」の不在――イタリア在住のフィリピン系第一・五世代のあいまいな未来イメージをめぐって(長坂 格)
一 はじめに
二 移住者の未来イメージ
三 第一世代のイタリアへの移住
四 第一世代のイタリア生活とキーシナリオの形成
五 第一・五世代の移住経験
六 比較
七 おわりに
●第三部 他者接触と記憶の媒体
第一一章 皮膚から紙へ刻み写す――ビーチコマーと民族学者によるマルケサス諸島のイレズミの記憶(桑原牧子)
一 はじめに
二 文様の時間、施術経験の時間
三 皮膚から皮膚へ刻み写す
四 皮膚から紙に記録する
五 紙から皮膚に復刻する
六 おわりに
第一二章 モノのやりとりをめぐる齟齬と擦りあわせのプロセス――西洋人とトンガ人の歴史的出会い(比嘉夏子)
一 西洋人とトンガ人の歴史的出会い
二 モノをめぐる多様なやりとりと解釈
三 ふるまいの変化と身体化
第一三章 パプアニューギニア、アンガティーヤの他者接触と世界の拡大をめぐる「記憶」(吉田匡興)
一 はじめに
二 本章における叙述の枠組み
三 アンガティーヤにおける初期接触以降の歴史的経過
四 過去表象の中の共通部分──アンガティーヤの中心性と周縁性
五 「集団間記憶」の抽象性と「集団内記憶」の優勢
六 集団内記憶としてのストーリー
七 ストーリーの諸相
八 おわりに――アンガティーヤにとっての世界の拡大過程
第一四章 西洋人にルーツを求める系譜語り――ミクロネシア連邦ポーンペイ島の親族関係にみる他者接触と史実性(河野正治)
一 はじめに――公的な記憶から零れ落ちるヴァナキュラーな記憶
二 諸外国からの統治と親族関係の変容
三 ポーンペイ島民による過去の想起の諸相
四 ジョン・ブラウンの子孫たち――国境を越える親族集団と他者接触の痕跡
五 系譜語りが紡ぐ過去と現在の親族関係
六 ジョン・ブラウンとは誰か――親族の記憶にみる史実と史実性
七 おわりに
第一五章 クリスマス島での英米核実験をめぐる記憶――キリバス人の被ばくの「語り」による再構築(小杉 世)
一 はじめに――他者の体験を想像すること
二 帝国のプロジェクトのはざまで――クリスマス島移住者のルーツ
三 英米核実験をめぐる記憶
四 被ばく者協会の成り立ちと現在
五 記憶の継承について
あとがき(丹羽典生)
写真図表一覧
索引