日韓国交正常化60周年を迎えて!「近くて遠い国」と言われる日本と韓国。何が遠いと感じさせるのだろうか。
日韓は今、若者を中心とした多様な交流が深まっており、未来に向けた新しい流れを作りつつある。本書が、韓国の成り立ちや民衆の風俗を知り、日韓の相互理解につながる一助になれば、これ以上の本望はない。(編訳:岩本 永三郎)
本書の底本である『歴史民俗朝鮮漫談』は一九二八年に発刊され、外交や人の交流、花柳界、地域文化の紹介、祭祀、説話、神話、民間信仰、政治経済、医療、さらには棲息する動物の比較など六十四稿以上にわたる膨大な内容の著作である。本書は、その中から、特に日本と縁のある民俗談を、注釈などを付けて現代語文に編集したものである。
原著は朝鮮総督府警察官吏の今村鞆(いまむら とも:一八七〇年~一九四三年)が長い朝鮮勤務の中で、民衆や知識人たちと深く接し、日本との比較を交えて朝鮮の風俗や習慣を研究した書である。近年、韓国では今村を「朝鮮民俗学」の祖として高く評価されており、本書はその代表作である。
本書の第一章では、李朝時代の初期(日本の室町時代)から李朝末期までの日本との交わりを描いている。朝鮮通信使との形式を巡っての日本と朝鮮の微妙な考え方や礼法の相違、鬱陵島付近での倭寇に対する当時の日本と朝鮮の動き、琉球に遭難した朝鮮人が見た琉球諸島や九州の風俗などが、一般にはあまり知られていない舞台裏の話なども交え、興味深く記されている。概して、儒教国家の朝鮮から見て、日本は武力に長けた国として映っていた。
また、第二章では、朝鮮の風俗、風習の類似性や八瀬の童子のように、日本にある朝鮮の風俗を多くの文献を引用しながら紹介している。加えて、昔から言われている朝鮮人の「生活の特徴」なども紹介している。それらを見ると現代韓国に通じるものも多くあり、ふと笑いすら誘ってしまう。今村の書の特徴は古い文献を入念に調べての記述だけに重みがある。
第三章は、明治以降の事柄をまとめたものであるが、当時の気概に燃える日本人官吏の姿には、上層部の政治的目的とは別に、ある種の新鮮さを感じさせる。同時に韓国併合初期の「武断政治」に一抹の懸念を抱いていた心情も垣間見られる。「回顧二十年前」は今村の朝鮮生活の後半期に書かれたもので、『朝鮮風俗集』の補足と一部の内容を深めたものである。第三章の末尾に、当時の在朝鮮の日本人が吟じた川柳を紹介したが、そのーつーつが当時の情景を思い浮かばせるようで貴重な資料でもある。