昭和十四年十月三十一日(火) 晴
気もちがおちつかなく朝からねる。午後山へ写生に出る。
一途な心がまだたりぬのだ。ゴッホの様に描かねばならぬ。
油彩のダイナミックな筆致の風景画・静物画作品から、時に「鬼才」とも評される画家・野口謙蔵。東京美術学校卒業後は郷里の滋賀県蒲生郡桜川村(現・東近江市)に戻り、万葉集の時代から「蒲生野」と呼ばれたふるさとの風景・風物を題材とした作品を制作しつづけた。
本書は、謙蔵が昭和13年から亡くなるまでの19年にかけて書いた日記のうち、13・14年分を収録。
師事した和田英作、伯母と従姉にあたる野口小蘋・小蕙をはじめとする画家、近くに住む米田雄郎を通じた前田夕暮、水原秋桜子、種田山頭火ら、歌人・俳人との交流とともに、幼い長男の健康への気づかい、思うように描けないことへの苛立ちや自身への叱咤など、画家としての心情が率直に綴られている。