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顕在化する多言語社会日本

多言語状況の的確な把握と理解のために

編著:福永 由佳
監:庄司 博史

紙版

内容紹介

「日常の多言語化」現象
多言語状況はたんに記述されるためにあるわけではない。本書では、日本社会の過去・現在の現象や制度に埋め込まれている意識やイデオロギーの内実を注視し、いかなる多言語社会を目指すのかを考察する。

目次

まえがき(福永由佳) 001

第I部 総 論 009
第1章 多言語状況をとらえなおす
 ――特に多言語環境概念検証の枠組みから(庄司 博史)010
1.はじめに 010
2.多言語社会とは 011
2.1.多言語社会の構成要件の相互関係 012/2.2.多言語能力と多言語意識にとっての多言語環境 013
3.多言語環境と二つの多言語状況 014
3.1.多言語環境からみた二つの“多言語”状況とその背景にあるもの 015/3.2.政治からみた二つの多言語状況 017/3.3.移民言語話者意識にみられる存在主張の根拠の脆弱さ 023
4.進行中の多言語状況を多言語環境から再考する 025
4.1.二つの気づき 025
5.多言語環境への変化を知覚させる要素 027
5.1.分析の視点 029/5.2.多言語体験の自覚の契機となりうる事象 030
6.まとめと課題 031
参考文献 032

第2章 国家のマルチリンガリズムを記述するための概念的フレームワークについて(ジョン・C・マーハ)035
1.はじめに マルチリンガリズムから社会言語学へ 035
2.国家の言語的多様性を記述する従来の方法 036
2.1.19世紀に実施された植民地時代の調査 036/2.2.20世紀に実施された国家横断的調査 036/2.3.EUとUNによるマルチリンガリズムの推進 037/2.4.民間の研究機関による言語データの収集 037/2.5.学術的総合言語調査 038
3.国家のマルチリンガリズムを記述する概念的フレームワーク 042
3.1.国勢調査―住民個人レベルのマルチリンガリズム 043/3.2.標準語とそのバリエーションのマルチリンガリズム 046/3.3.歴史的マルチリンガリズム 047/3.4.遺産的言語および準国家的言語のマルチリンガリズム 049/3.5.特定ジャンルにおけるマルチリンガリズム 050/3.6.コミュニティにおけるマルチリンガリズム 050/3.7.教育におけるマルチリンガリズム 052
4.結論:共有するテーマ 052
5.終わりに 054
参考文献 054

第3章 「多言語社会」の語り方(安田 敏朗)058
1.はじめに――解釈としての「多言語社会」 058
1.1.日常の光景となった多言語状況―2018年「歌会始の儀」から 058/1.2.そもそも存在する多言語状況 059/1.3.忘却される多言語状況 060
2.言語問題が注目されるとき 062
2.1.戦争と言語問題―平井昌夫の指摘から 062/2.2.社会変動と言語問題―長い「戦後」のなかで 064
3.「多言語」が注目されるとき 065
3.1.冷戦終結と国民国家論―1990年代の社会変動 065/3.2.バイリンガリズムへの注視 066
4.「多言語社会」が注目されるとき 069
4.1.「多言語」をかかげた研究会の発足 069/4.2.「われわれ」のなかの「言語的多様性」071
5.「顕在化する多言語社会日本」という解釈 073
5.1.「顕在化」の契機は何か 073/5.2.英語化にともなう「国語」の再強化 074/5.3.あるべき「多言語社会」の模索のために 076
引用文献 078

第4章 多文化共生と「多」言語共生時代
 ――メトロリンガリズムの視点からの社会統合の内実(尾辻 恵美)081
1.はじめに:Speak English 081
2.ありふれたメトロリンガリズム 085
2.1.Ordinariness of diversity(多様性の日常性) 085/2.2.日本における顕在化する多言語社会とメトロリンガリズム 087/2.3.新宿のバングラデシュ系の雑貨店の場のレパートリー 089
3.セミオティック・アセンブレッジと2つの言語イデオロギーの転回 093
3.1.メトロリンガル的な視点からの言語イデオロギーの二つの転回 093/3.2.第一のイデオロギーの転回:ポスト・マルチリンガリズムへの転回 095/3.3.第二のイデオロギーの転回:セミオティック転回 096
4.セミオティックなメトロ・リンガフランカ 098
5.メトロリンガリズムの視点からの社会統合 101
6.「言語」というイデオロギーの再考へむけて 106
参考文献 108

第II部 各 論 113
第1章 日本における英語との「関わり」
 ――余暇活動・自己成長・忍耐力の指標(田嶋 美砂子)114
1.はじめに 114
2.英語との「関わり」:余暇活動 115
3.英語との「関わり」:自己成長 118
4.英語との「関わり」:忍耐力の指標 125
5.おわりに 131
参考文献 133

第2章 多言語化する日本人に関する一考察
 ――在日パキスタン人コミュニティの日本人家族成員のデータ分析をもとに(福永 由佳)135
1.はじめに――可視化されない日本の多言語状況と当事者としての日本人 135
2.在日パキスタン人コミュニティにおける日本人家族成員 137
3.データ・方法 138
4.言語資源 139
5.言語能力 142
6.領域別使用言語 146
6.1.使用言語数 147/6.2.英語とウルドゥー語の使用場面 148/6.3.使用言語のうち、最も活発に使われる言語 149
7.まとめ 151
参考文献 153
章末資料 言語使用に関する領域と設問 155

第3章 サハリン帰国者の若い世代の顕在化する多言語使用とエスニック・アイデンティティの多重性 パイチャゼ スヴェトラナ 156
1.はじめに 156
2.問題の所在 158
2.1.研究背景 158/2-2.研究目的と展望 160
3.北海道・札幌における外国人の状況 162
3.1.札幌市に居住する外国人・帰国者の統計 162/3.2.札幌市における外国人・帰国者の児童生徒への学習支援 164
4.活動・生活から見えてきた問題と展望 167
4.1.アイデンティティ 167/4.2.言語の使用と学習 168
5.質問紙及び聞き取り調査より 170
5.1.調査の対象と方法 170/5.2.質問紙調査 171/5.3.聞き取り調査より 173
6.おわりに 176
参考文献 177

第4章 ブラジル人集住地における住民の多国籍化・多言語化
 ――群馬県大泉町の事例を中心に 拝野 寿美子 179
1.はじめに 179
2.大泉町における外国人住民の増加と多国籍化 180
3.住民の多国籍化・多言語化への町の対応 182
4.ブラジル人向けビジネスにおける言語使用の諸相 185
5.多国籍化が進む住民間の関係性 188
6.ポルトガル語を学ぶ日本人 190
6.1.ブラジル人との交流をきっかけに 191/6.2.教育支援に役立てたい 191
7.おわりに 193
引用文献 195

第5章 法廷通訳と異文化コミュニケーション
 ――正確な通訳と異文化を訳すこと 吉田 理加 197
1.はじめに 197
2.コミュニケーションの出来事モデルとメタ語用 199
3.『法廷通訳ハンドブック実践編』から読み取れる「正確な通訳」 200
4.コミュニケーション論的視点から見た「正確な通訳」 203
4.1.語用論的等価性を保持した通訳 204/4.2.社会言語学的視点から見た正確な通訳とは 208
5.法廷通訳人の実践意識と「正確な通訳」とは 212
5.1.正確な通訳を達成するために通訳人が果たしている能動的役割 213/5.2.語用論的前提の差異を通訳する 216
6.まとめ 218
参考文献 220

展望にかえて 庄司 博史 223

執筆者紹介 226

著者略歴

編著:福永 由佳
国立国語研究所日本語教育研究領域・研究員
【研究テーマ】日本語教育学、言語政策研究、社会言語学、特に多言語使用
【主要業績】[著書]『グローバリズムに伴う社会変容と言語政策』(共著、ひつじ書房、2014)、『「評価」を持って街に出よう―「教えたこと・学んだことの評価」という発想を超えて』(共著、くろしお出版、2015)、『成人教育(adult education)としての日本語教育―在日パキスタン人の言語使用・言語学習のリアリティから考える』(ココ出版、2020)
[論文]「日本で生活する外国人の言語能力に関する考察:「生活のための日本語」全国調査から」(『多言語多文化研究』21巻1号、2015年)、「“パキスタンストリート”の言語景観―自律、排除、そして共存」(『ことばと社会』18号、2016)、「日本語教育における複数言語使用の研究の意義と展望」(『早稲田日本語教育学』22号、2017)
監:庄司 博史
民族学博物館・名誉教授
【研究テーマ】ウラル言語学、社会言語学、移民言語研究
【主要業績】[著書]『世界の文字事典』(編著、丸善出版、2015)、『移民とともに変わる地域と国家国立民族学博物館調査報告SER 83』(国立民族学博物館調査報告、2009)、『日本の言語景観』(共編著、三元社、2009)
[論文]“Japan as a multilingual society” (P. Heinrich & Y. Ohara(Eds), Handbook of Japanese Sociolinguistics, Routledge, 2019)、「移民の母語教育の現状と課題」平高史也・木村 護郎編『多言語主義社会に向けて』(くろしお出版、2009年)、「多言語政策―複数言語の共存は可能か」多言語化現象研究会編『多言語社会日本―その現状と課題』(三元社、2013年)、「資産としての母語教育の展開と可能性―その理念とのかかわりにおいて」『ことばと社会』12号(三元社、2010)

ISBN:9784883035212
出版社:三元社
判型:A5
ページ数:238ページ
定価:3650円(本体)
発行年月日:2021年01月
発売日:2021年01月15日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VSL
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:DS