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芸術祭の危機管理

著:吉田 隆之

紙版

内容紹介

「あいちトリエンナーレ2019」。
一部の作品を攻撃する電凸、メール、脅迫などで展示中止となったことは、いまだ記憶に新しい。

 本書では津田大介へのインタービューを交えながら当時を網羅的、時系列で概観し、マスメディアのほかWEB、SNS などの断片的な情報を1 本の線でつなぎ、客観的な分析を試み論考する。

 表現の自由、公的補助金問題などや検証委員会のありかたを含め「あいちトリエンナーレ」全体を俯瞰、分析し、これからの芸術祭に必須の危機管理と、表現の自由を守るためのマネジメントについて考えるための1冊。

目次

はじめに
序章 あいちトリエンナーレ2019

第1章 あいちトリエンナーレでなにが起きたのか
1. 「表現の不自由展・その後」の中止
2. 展示再開から閉幕へ
 市民、専門家らの声明と、自治体首長の発言
 再開に向けた津田芸術監督、愛知県、アーティストらの動き
 国内の2019出展アーティストの奮闘 -「Refreedom_Aichi」
 不自由展実行委員会の仮処分申し立てと中間報告
 文化庁の補助金不交付決定
 愛知県と不自由展実行委員会との和解・合意
 展示再開へ
3. 閉幕後
 文化庁長官、愛知県、名古屋市の動き
 最終報告書と第一次提言
 あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議の開催とあいちトリエンナーレ2022に向けた動き
 文部科学大臣新人賞と文化庁の補助金減額交付決定
 名古屋市の検証委員会
 あいちトリエンナーレ組織委員会(仮)の設立準備
4. あいちトリエンナーレ2019以外のできごと ―ひろしまトリエンナーレなど

第2章 中止展示にまつわる当時の議論の整理
1.長者町地区で開催された津田監督登壇のトークイベント
 開催経緯
 4つの論点整理
 展示中止・再開の可否
 展示内容の批判
 今回の事態が表現の自由を後退させた?
 日本の芸術祭・社会の行方は? 対話は可能なのか?
2. 「不自由」から「連帯」・「寛容」へ

第3章 なぜ「表現の不自由展・その後」の展示中止が、起きたのか。
1. キュレーション等が不適切だったとの見解
2. SNS社会を踏まえた電凸等事前の準備が不十分だったとする見解
3. 一部の政治家らの発言が電凸を煽ったとの見解
4. 表現の自由が後退していたとの見解
5. 政治と芸術が衝突したとの見解

第4章 なぜ展示を再開できたのか。
1. 津田芸術監督
2. 出展アーティスト
3. 大村知事
4. あいちトリエンナーレのあり方検証委員会
5. ボランティア
6. ラーニングチーム
7. 関係スタッフ、ボランティア、アーティスト等あいちの現場の緩やかなネットワーク
8. まとめ

第5章 税金を使い、《平和の少女像》のような政治性・社会性の強い芸術作品を展示することが、美術館・芸術祭等で認められるのか。
1. 世論の分断と、表現・芸術の自由と公共性の議論の必要性
2. 税金を使い、《平和の少女像》のような政治性・社会性の強い芸術作品を展示することが、美術館・芸術祭等で認められるのか。
 争点の整理
 市民が公的施設(市民ギャラリー等)で政治性・社会性の強い芸術作品を展示・公演することは、認められるのか。
 税金を使い、芸術祭・美術館・劇場等で政治性・社会性の強い芸術作品を展示・公演することが認められるのか。

第6章 文化庁の補助金不交付決定が認められるのか。
1. 文化庁の補助金不交付決定が認められるのか。
 文化庁の補助金不交付決定
 アームズ・レングスの原則
 文化庁の補助金不交付決定理由
2. 文化権に関わる問題
 国際法上の文化権
 国内法上の文化権
 文化芸術基本法上の文化権
 日本国憲法上の文化権
3. 文化庁の減額交付決定

第7章 「あいちトリエンナーレあり方検証・検討委員会」を検証する
1. 中間・最終報告書、第一次提言の概要
2. 中間・最終報告書、第一次提言を検証する
 芸術監督責任論と独断専行を防ぐガバナンス?
 中間報告と最終報告書の主な差異について
 大浦信行の新作映像について
 第一提言の具体策の検証
  検閲の定義
  会長の民間人起用
  専門家らで組織するアーツカウンシル的組織(諮問機関)の設置
  件美術感への指定管理者制度の導入
3. 物議を醸さないマネジメント?

第8章 「あいちトリエンナーレ名古屋市あり方・負担金検証委員会」を検証する
1. ことの発端
2. 報告書の概要
3. 報告書を検証する

第9章 芸術祭とアーツカウンシル
1. アーツカウンシルの意義
2. 地域型アーツカウンシルの組織形態 ―大阪アーツカウンシルを中心に
3. 文化庁の補助金不交付決定といった事態は、大阪府市・大阪アーツカウンシルのもとでも起きるのか
4. 大阪府市の文化政策のあり方
5. 大阪府市の文化政策の展望

第10章 芸術祭の危機管理 ―表現の自由を守るマネジメントとは?
1. 芸術祭と危機管理
2. 表現の自由と危機管理
 表現の自由を守るマネジメントとは?
 電凸対応と情報共有
  電凸対応
  キュレーションの自律
  表現の自由を守るガバナンス組織
3. 芸術祭と危機管理 ―新型コロナウイルス感染症対応
 芸術祭と新型コロナウイルスの危機
 いちはらアート×ミックス2020の開催延期
  初期対応
  2021年度の対応と課題
 芸術祭と2つの危機
4. あいちトリエンナーレと「表現の自由」
 「表現の自由」を旗印に!
 あいちトリエンナーレはなにをめざすのか。

おわりに
 まとめ
 今後の実践・研究課題

謝辞 索引 参考資料・文献対照表

著者略歴

著:吉田 隆之
1965年神戸市生まれ。愛知県庁在職時にあいちトリエンナーレ2010 長者町会場を担当。職務を離れてからも長者町地区内外で一市民としてアート活動やまちづくりに関わる。2015 年より大阪市立大学大学院都市経営(創造都市)研究科准教授。京都大学法学部卒、京都大学公共政策大学院修了、東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程音楽文化学専攻芸術環境創造分野修了。公共政策修士(専門職)、博士(学術)。研究テーマは、文化政策・アートプロジェクト論。著書に『トリエンナーレはなにをめざすのか―都市型芸術祭の意義と展望』(水曜社、2015 年)、『文化条例政策とスポーツ条例政策』(吉田勝光との共著、成文堂、2017 年)等。 *吉田は正しくは(土に口)

ISBN:9784880654874
出版社:水曜社
判型:A5
ページ数:192ページ
価格:2500円(本体)
発行年月日:2020年07月
発売日:2020年08月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBCC