本書は元高知市副市長で、現高知市社会福祉協議会会長(2025年8月現在)の吉岡章氏への6回にわたるインタビューの記録である。
多くの中核市のなかでも、高知市は基幹産業が乏しく税財政基盤が弱いなかで、長年厳しい行財政運営を行ってきた。そうしたなかで、市はコミュニティ政策、合併後の「土佐山学舎」の創設、総合あんしんセンターの建設、地域共生社会の推進など市独自の政策を展開し、一方で90年代の大型投資にともなう財政再建なども行ってきた。こうした一連のダイナミックな市政のキーマンとして40年以上関わった人物が吉岡氏である。
本書は個々のエピソードにとどまらず、「市民の暮らしを守る」という政策理念とともに歩んだ吉岡氏の半生を描いており、それは現在取り組まれている「高知市型地域共生社会」というかたちで結実している。
地域共生社会とは人口減少社会における新たなまちづくりのビジョンであり、「支える側」と「支えられる側」、「住民」と「行政」、「若年層」と「高齢者」といった従来の二項的な関係性にもとづく社会ではなく、年齢や属性などにかかわらず、お互いが支え合い生きがいのある地域を創造していく社会である。現代社会は人口減少、少子高齢化などを背景に人間関係の希薄化、孤立・孤独化、担い手不足などが社会全体を覆い、世代や立場にかかわらず当たり前の日常生活を営むことが困難になりつつある。こうした状況に対し、地域共生社会は住民、自治組織等の団体、NPO、民間企業、行政などのさまざまな主体の関係性を双方向に結び直し、地域の課題を身近なところで解決し、安心して暮らしていけるまちづくりを目指すものである。
「高知市型」の特徴は行政、社協、その他近隣住民やボランティアなどがそれぞれ独自の活動を行いながら、相互に連携する体制にある。たとえば「ほおっちょけん相談窓口」は薬局や社会福祉法人が住民の困りごとを把握し、公的支援につなげていく市のモデル事業からはじまっているが、これらはもともと地域住民とのふれあいのなかで形成されてきたアウトリーチ機能を体系化したものである。また、生活支援ボランティアはごみ出しや家具移動などの地域のちょっとした困りごとを、地域住民が年齢や性別を問わず、できる範囲で支援する相互支援の仕組みであり、社会福祉協議会がニーズのマッチングを行っている。このように行政主導でもなく住民への丸投げでもない、ほどよい連携を通じて創造される新たな社会が吉岡氏の追求してきたものであり、それは現在でも社会福祉協議会会長として実践的なかたちで取り組まれている。
本書は一般向けの書籍として多くの読者に読んでいただける内容であるとともに、学術的にも次のような意義をもっている。第一に財政研究として、テキストなどでは知り得ない貴重な資料である。第二にコミュニティ研究として、第三に政府間関係論の視点からも注目される。第四に人材育成として、吉岡氏独自の工夫を知ることができる。