観光コースでない京都
著:平井 美津子
著:本庄 豊
内容紹介
日本一の観光地であり、世界有数の観光都市である京都。
清水寺や金閣寺に代表される文化財、祇園などの街並みや都おどり、舞妓さん、古都ならではの伝統行事や祭り、茶道や華道の家元……。また京料理など食においても、洗練された観光資源を京都は持っている。だから、国内外の観光客をひきつける。
では、本書で紹介する「観光コースでない京都」とは何だろう。それは今までのガイドブックの「観光地京都」とはどう違うのだろうか。
一つ目は、短期滞在型になる大多数の観光客には見えない、あるいは見つけることのできない京都を紹介することである。大型バスの入れない路地裏にも京都らしい雰囲気はたくさんあるし、小さな美術館・史料館がひっそり隠れるように開館している。
二つ目は、近代京都、現代京都を紹介していくことである。古都京都と呼ばれている景観が、実は近代京都の産物であったことは意外と知られていない。天皇の都だった京都は幕末に血なまぐさい政治の舞台として「復活」するが、その後近代天皇制確立期に都市として整備されていくことになる。平安神宮や時代祭など古都の「伝統」のルーツが近代にあったことを、読者の皆さんはどう受け止めるだろうか。近現代の京都と戦争とは切り離せない。戦争については被害、加害、抵抗の視点から書くとともに、戦後史(現代史)にも目を配るようにした。
三つ目は、インバウンド(訪日外国人旅行)の激増によるオーバーツーリズム(観光公害)や、ホテル建設バブルなどで街壊しがすすむ現代の京都について、深く掘り下げて紹介していくことである。観光地として「見せる京都」が発展するなかで、見えない京都、見せたくない京都はどうなっているのかを考えてもらう素材を提供したい。京都は自治の町であり、京都の景観をめぐる運動の歴史は京都市民(町衆)の主体的なたたかいにいろどられていることを、少しでも知っていただければと思う。
本書の対象エリアは、京都市が中心であるが、一部京都府南部や北部のことも書いている。より立体的に京都を捉えたいからである。本書を片手に京都をそぞろ歩いてほしい。今までの「観光コース」とは違う、京都の別の顔が見えてくるだろう。
目次
はじめに
Ⅰ 洛 中
幕末維新の舞台・高瀬川
京都の町衆が作った番組小学校
リベラルな学風を築いた同志社の人びと
朝鮮語で詩を書いたために刑務所で死んだ尹東柱
進駐軍がいた京都
コラム 銭湯に行こう
コラム 和菓子の京都──京菓子資料館
Ⅱ 洛 北
『広辞苑』編纂者・新村出の重山文庫
軍国主義から平和主義へ──立命館大学の歴史を歩く
京都(帝国)大学の戦争責任・植民地支配責任を考える
広島で被爆した南方特別留学生オマールさん
精神医療・老人介護を支える地域・岩倉
コラム 京都で開催された全国水平社創立大会
Ⅲ 洛 東
京都の花街「祇園」の光と影
コラム 八坂神社参道に軒を連ねた祇園町商店街の栄枯盛衰
清水焼の手りゅう弾──焼き物のまち五条坂を歩く
京都工芸の隆盛──並河靖之七宝記念館
明治政府が秀吉を復権した理由──豊国神社と耳塚
映画「パッチギ」の舞台──東九条と鴨川
近現代史のなかの忠臣蔵──大石神社周辺を歩く
コラム 本願寺水道と琵琶湖疎水
Ⅳ 洛 南
「鳥羽・伏見の戦い」の跡を歩く
京都に帰った明治天皇と乃木希典──桃山御陵と乃木神社
戦争孤児が集められた伏見寮
Ⅴ 洛 西
嵐山に「女の碑」を見に行く
嵐山で日本と中国の平和を考える
滅びゆく京都の時代劇
Ⅵ 洛 外
京都にあった二大リゾート地──愛宕山・比叡山
宇治・ウトロ集落で日本の植民地支配の歴史を考える
世界初の原子炉反対運動──宇治市木幡
コラム 欧米のバイヤーが求めた宇治茶の魅力
〝幻の鉄道〟大仏鉄道跡を歩く
福知山・明智光秀の城下町から「軍都」「鉄道の町」へ
舞鶴・二つの引揚船──興安丸と浮島丸
京都はどこへ行こうとしているのか
あとがき
参考文献