はじめに―本書の構成と問題意識―
◉Ⅰ 古今和歌集と紀貫之
一章 古今和歌集から万葉集へ―紀貫之を起点として―
一 本章の課題と方法
二 『古今集』歌人は『万葉集』を読めたのか
三 枕詞「鳴神の」と「音に聞く」
四 「恋ひわたるかな」という類句
五 歌ことば「逢ふこと……」の成立
六 「心情→物象→心情」と切り替わる構造の歌
二章 古今和歌集の羇旅歌について―万葉集からの継承と変化―
一 『古今集』の中の羇旅歌
二 羇旅歌の要件
三 羇旅歌の歌人と構造
四 遣唐使に関わる歌(一)―歴史的背景―
五 遣唐使に関わる歌(二)―表現の力―
六 在原業平の新しさと古さ―「唐衣きつつなれにし妻」―
七 「よみ人知らず」の三首―羇旅歌の空間性―
八 撰者たちの羇旅歌―後世へと継承されるもの―
三章 土佐日記の亡児哀傷と「都へ帰る女」
一 本章の課題と趣旨
二 「女性仮託」について
三 「亡児哀傷」の記事(一)―船出・羽根―
四 「亡児哀傷」の記事(二)―忘れ貝・旅の終わり―
五 『古今集』と『土佐日記』―羇旅歌・業平・「東下り」―
六 『万葉集』に遡る
七 「旅をする女」の誕生
四章 土佐日記の海―〈見立て〉と「月」―
一 『土佐日記』の船旅
二 美しい海―波を見立てる―
三 海の広がり―「入る月」と「出づる月」―
四 海の深さ―〈見立て〉と「映る月」の交響―
五 海の文学史における『土佐日記』
◉Ⅱ 伊勢物語の世界
五章 伊勢物語の東海道―東下り章段/伊勢斎宮章段―
一 古代の東海道と『伊勢物語』の「東下り」
二 「東下り」を読む(一)―中核をなす九段―
三 「東下り」を読む(二)―そのほかの章段、そして六十九段―
四 「東下り」の背景にあるもの―東国へと向かう想像力―
六章 伊勢物語の「われから」―二条后章段―
一 海の生きもの「われから」
二 「われから」の小文学史―斎宮女御・『源氏物語』・西行法師―
三 『伊勢物語』の女の「われから」
七章 伊勢物語の「小野の雪」―惟喬親王章段―
一 平安京の雪/『古今集』の雪
二 「惟喬親王章段」の春
三 隔てる雪
四 「目離れせぬ雪」
五 包み込む雪
八章 〈距離〉の文学・伊勢物語―芥川そのほか―
一 『伊勢物語』の〈距離〉の広がり
二 「東下り章段」と「伊勢斎宮章段」―東へと延びる〈距離〉―
三 「惟喬親王章段」の南と北
四 〈距離〉を往復する物語―「二条后章段」(一)―
五 「芥川」から摂津章段へ―「二条后章段」(二)―
◉Ⅲ 源氏物語の和歌
九章 源氏物語の和歌の諸相―三つの観点から―
一 本章の課題
二 作中歌の史的位相(一)―『古今集』を受け継ぐ―
三 作中歌の史的位相(二)―時代の好尚を先取りする―
四 引歌の諸相(一)―心中思惟の中で―
五 引歌の諸相(二)―自然叙述の中で―
六 引歌の諸相(三)―作中人物に伴って―
七 作中歌の機能(一)―贈答歌・独詠歌・唱和歌―
八 作中歌の機能(二)―物語を推し進める力―
十章 独詠歌はどのように詠まれるのか―光源氏の歌を中心に―
一 作中歌の三分類
二 「閉じられた独詠歌」と「開かれた独詠歌」
三 独詠歌を詠む人々
四 光源氏の独詠歌の検討(一)―巻ごとに見る―
五 光源氏の独詠歌の検討(二)―羇旅歌的契機―
十一章 源氏物語の中の古今和歌集―引歌を回路として―
一 『源氏物語』に引かれる『古今集』歌
二 『古今集』からの引歌を概観する
三 引歌となる回数の多い歌とは―普遍的な「こころ」と機智的な「ことば」―
四 哀傷からの引歌―さまざまな悲しみのかたち―
五 春上からの引歌―梅香の引歌は薫に集中する―
十二章 「紫の上の物語」と古今集恋歌
一 『源氏物語』の中の『古今和歌集』
二 『古今集』恋歌の世界
三 恋の始まり―若紫巻の「ほのかに見る」「声を聞きしより」―
四 男君の心変わりを嘆く―明石巻・澪標巻の「煙」―
五 移ろう愛―若菜上巻の「あき」―
六 紫の上と藤壺宮―恋三の欠落を埋めるもの―
◉Ⅳ 宇治十帖の和歌と物語
十三章 薫が求愛者になるまで―反復する要素と三首の独詠歌―【橋姫巻・椎本巻】
一 薫とともに宇治十帖に分け入る
二 若紫巻・明石巻のプロットの継承
三 反復される四つの要素
四 異界への移動と物語の始まりを告げる独詠歌
五 「山おろしに」の歌の表現
六 彽徊する歌
十四章 薫の恋の「かたち」―「山里のあはれ知らるる」の歌を中心に―【総角巻】
一 本章の課題
二 喪失から恋へ
三 「語りあいたい」という願望
四 擬似的な逢瀬と後朝の歌
五 物語の世界を遡る(一)―夕霧巻・賢木巻―
六 物語の世界を遡る(二)―夕顔巻の「夜明け」―
七 大君の返歌と結婚拒否
十五章 薫と匂宮、それぞれの「道」―照らしあう散文と歌―【総角巻】
一 本章の課題
二 「心もゆかぬ明けぐれの道」―薫の敗北宣言―
三 「露ふかき道の笹原」―匂宮の懇請―
四 「空ゆく月をしたふかな」―物語を照らしかえす歌と散文―
十六章 浮舟物語の和歌―作中歌にあらわれる個性―【東屋巻・浮舟巻】
一 本章の課題
二 薫の独詠歌三首―宿木巻・東屋巻―
三 「宇治橋」の贈答歌―薫と浮舟―
四 「行方知らず」の予感―匂宮と浮舟―
五 雨の日の贈答歌―薫・匂宮・浮舟―
六 「末の松山」―浮舟の歌まなび―
十七章 彽徊する薫/流転する浮舟―物語を推し進める力― 【蜻蛉巻・手習巻・夢浮橋巻】
一 本章の課題
二 蜻蛉巻・手習巻の時間の構造
三 蜻蛉巻・四十九日まで―残された男二人の物語―
四 蜻蛉巻・四十九日以降―薫の新たな物語の可能性―
五 手習巻の秋―中将の求愛がもたらしたもの―
六 浮舟の歌(一)―運命を見つめる―
七 浮舟の歌(二)―幻巻の方法の再現―
八 「袖ふれし人」は誰か
九 浮舟と薫―一周忌を契機として動き出す物語―
十八章 浮舟の最後の歌「尼衣かはれる身にや」の解釈― 「や~む」という語法を中心に―
一 本章の課題と方向性
二 先行研究の整理
三 「かたみに袖をかけて」の再検討
四 係助詞「や」は疑問の意を表わす
五 いわゆる「不望予想」の歌
十九章 歌ことば「あまごろも」について
一 本章の課題
二 手習巻の『竹取物語』引用
三 平安和歌における歌ことば「あまごろも」の検討
四 「あまごろも」は浮舟の最後の衣になるのか
初出一覧
あとがき
和歌初句索引