出版社を探す

わがいのち果てる日に

巣鴨プリズン・BC級戦犯者の記録

編著:田嶋 隆純

紙版

内容紹介

日本の敗戦後、戦勝国により「戦争犯罪人」とされた人々を収容した巣鴨プリズン。米軍管理下のこの施設で2代目教誨師となった田嶋隆純は、戦犯者が次々と刑場に消えていく中で「仏の慈悲を説く者が、人の殺されるのを見ていながら、徒らに手を束ねていて良いか」と、戦犯死刑囚の助命嘆願運動に献身し、在所者から「巣鴨の父」と慕われた僧侶である。その田嶋の編著になる本書は、死刑を宣告されたBC級戦犯者たちが迫り来る死と向き合いながら書き残した遺書と、教誨師として彼らの最期を見送ることになった田嶋自身による赤裸々な告白とが織りなす生と死のドキュメント。後半の「遺書集」(18編)には、異国の地で刑死したBC級戦犯者の遺稿も収録されている。先の大戦の知られざる諸相を照らし出すこの貴重な記録――1953年の初版刊行後、長らく入手困難となっていた「幻の書」――が、今ようやく新装復刊となった。
勝者のみがほしいままに敗者を裁くということは、文明の著しき逆行以外の何ものでもないであろう。なかんずく、私の最も悲しみに堪えないのは、不幸にも一方的裁判の犠牲となり、課せられた極刑の不当を訴える術もなく、十三階段上に恨みを呑んで散り去った人々のことである。(——田嶋隆純「序」より)
この「幻の書」には、一読すればわかるように当時の巣鴨プリズンにおける受刑者たちの日常の暮らしがどのようなものであったかが克明に記されている。それだけでも第一級の資料といっていいが、その外に田嶋自身による、戦争と犯罪、仏教をめぐる悪業と死刑の問題、仏教者と国家の戦争責任などの重大な問題が論じられている。それが戦後七十有余年を経て、わが国民の忘却のかなたに追いやられ、「幻の書」とされてきたのである。このたびその「巣鴨の父」と親しまれた田嶋隆純師の遺児である田嶋澄子さんに乞われるまま、「幻の書」となった遺著を復刊する仕事に賛同し、師のもうひとつの貴重な「戦後体験」を浮き彫りにして、多くの人々に知っていただきたいと願い、つたない一文を草することにしたのである。(——山折哲雄「復刊に寄せて」より)

目次

復刊に寄せて(山折哲雄)/推薦のことば(小林大康)/序/巣鴨の教誨師となるまで/「死の喜び」よりも「生の喜び」を/処刑の立ち会い/刑場への道/拘引記―二十八時間の記録/罪業感と戦争観/最後の晩餐/死刑囚の面会/死刑囚と仏教/遺書集/BC級戦犯者と田嶋隆純(大髙住夫)/あとがきにかえて(田嶋澄子)

著者略歴

編著:田嶋 隆純
1892(明治25)年1月9日、栃木県に生まれる。13歳で仏門(栃木市・満福寺)に入り、豊山大学(現・大正大学)で河口慧海に師事してチベット語とチベット仏教を学ぶ。1931(昭和6)年、フランスのソルボンヌ大学(パリ大学)に留学。’35年、フランス語で執筆した論文『大日経の研究』でパリ大学から文学博士号を授与される(翌年、パリで出版)。その後、栃木県の太山寺、高平寺、東京・小岩の正真寺の住職を務め、真言宗豊山派大僧正。また大正大学教授、同大学文学部長、図書館長、仏教学部長、真言学研究室主任、大学院研究室主任を歴任する。1941(昭和16)年夏、仏教界を代表して渡米し、各地で日米両国間の平和維持を懇請。戦後の’49年6月、米軍管轄下の巣鴨プリズンで2代目教誨師となり、戦犯死刑囚の助命嘆願運動に尽力。収容者から「巣鴨の父」と慕われる。’54年、巣鴨の教誨師としての功績により法務大臣より表彰。’57年7月24日没(享年65)。’59年に遺著『両部曼荼羅及密教教理』(仏文)が出版される。

ISBN:9784866770888
出版社:講談社エディトリアル
判型:4-6
ページ数:368ページ
定価:1700円(本体)
発行年月日:2021年07月
発売日:2021年07月05日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DNP
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ