帝国主義と植民地の時代におけるオスマン帝国の国際関係,20世紀の戦間期におけるイギリスやロシアの南下政策,戦後のアメリカと石油を中心にイスラエルとアラブとの対立。2世紀に及ぶ中東世界の歴史的事実と地域や国家,人びとが激動期にどう生き延びてきたのか,その経緯を実証的,歴史的に考察する。
中東の歴史は,多くの言語文化,イスラーム諸宗派の対立,政治権力の確執,そしてナショナリズムや多数の武装集団の抗争など問題が重層的に渦巻き,さらにその背景で西洋列強の進出と支配,戦後はアメリカとイスラエル勢力の介入により混迷の度を深めてきた。
著者は外交官として中東諸国の現場で経験を蓄積し,現地目線で問題の実態を客観的に観察してきた。公務の傍らオックスフォード大留学を機に中東の歴史研究に親しみ二冊の学術書を公にした。東北大学出向の折に中東近現代史の授業を持ち,それが本書に結実する。
歴史的視点と錯綜する現実への冷静な分析で全体像を描き出し,中東の未来への提言をも示す。巨視的かつ具体的な実態把握,膨大な文献群の活用,事実に即した客観的叙述は他に類を見ない中東理解への新たな扉となり,日本の近代化や列強諸国との関係,現代の外交政策を振り返る契機ともなろう。研究者や中東で経済・社会活動をする実践家にとっては座右の書となる。