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民衆本狐ライナールトと検閲

民衆本『狐ライナールト』『狐ライナールトあるいは動物の審判』ほか

編著:檜枝 陽一郎

紙版

内容紹介

前著『中世オランダ語 狐の叙事詩』(第50回日本翻訳文化大賞)の韻文写本『ライナールト物語』(15世紀第二四半期)、散文印刷本『狐ライナールト物語』(1479年)の完訳に続く本書では、民衆本『狐ライナールト』(印刷本、1564年)、『狐ライナールトあるいは動物の審判』(宗教にかかわる記事を排除した印刷本、1700年前後)等の完訳と合わせ、民衆本の印刷文化がいかに「検閲」を受けながら、変容を余儀なくされたか、王権と宗教権力のはざまで、当時の印刷文化がいかに展開したかを精緻に研究した「解説三篇」よりなっている。◆「語り」がもつ「無意識」と「意識」との葛藤は、「物語構造」の核心にかかわる。韻文写本に語られた「動物寓話」の物語では、狐ライナールト一族の「本然の悪」から発露する社会批判・教会批判が寓意的な無意識により自在に語られていた。しかし、新興の印刷文化に支えられた「民衆本」の登場では、この本然の無意識の表現は、「検閲」と「弾圧」を含む強制や出版者の自制により変容を余儀なくされた。とはいえ、この中世最大の動物物語は、印刷本により各国にわたる多様な展開とともに版を重ね、その核心を伝えて今日まで語りつがれてきた。

目次

・第一篇 民衆本狐ライナールト(完訳)
読者のみなさんへ・登場動物一覧
第一章~第七〇章 
民衆本狐ライナールト・訳註
民衆本狐ライナールト・人名地名索引
・第二篇 狐ライナールトあるいは動物の審判(完訳)
登場動物一覧
第一章~第三一章 
読者のみなさんへ、出版許可
狐ライナールトあるいは動物の審判・訳註/狐ライナールトあるいは動物の審判・人名地名索引
・第三篇 解題
⑴民衆本『狐ライナールト』
 成立の経緯/内容の比較/脇役陣の消去/語り手による語りの削除/社会批判の削除 /教会批判の削除/ペーター・ファン・ケールベルヘンとその活動/『十二族長の遺訓』と『ダビデの物語』、ガブリエル・メウリーア、民衆本『狐ライナールト』
⑵『狐ライナールト』と一六世紀の検閲
 ヴォルムス勅令/ルーヴァン大学神学部と禁書目録/トリエント公会議の禁書目録/ アントヴェルペン目録、一五六九年、一五七〇年、一五七一年/民衆本に起こった二つの変化
⑶『狐ライナールトあるいは動物の審判』
 成立時期/一六一四年問題/修正の具体的内容、⑴宗教色の脱色、⑵迷信および俗信の排除、⑶良俗の維持
⑷書誌情報
解題・註
付録
『ケンブリッジ断片』の解説と全訳
参考文献
あとがき
訳者略歴

著者略歴

編著:檜枝 陽一郎
1956年、福岡県生まれ、現在、立命館大学文学部教授。
著訳書:ネリー・ナウマン『山の神』(共訳)、同『哭きいさちる神スサノヲ』(共訳)、同『久米歌と久米』、同『生の緒』、エミール・バンヴェニスト『インド・ヨーロッパ諸制度語彙集I・II』(共訳)、『中世オランダ語 狐の叙事詩』(編訳・読解)、スティグ・ヴィカンデル『アーリヤの男性結社』(共訳、以上、言叢社)、『中世低地ドイツ語』(共著 大学書林)、『オランダ語1500』(編著 大学書林)、ウルリヒ・アモン『言語とその地位』(共訳 三元社)などがある。

ISBN:9784862090782
出版社:言叢社
判型:A5
ページ数:348ページ
定価:5200円(本体)
発行年月日:2020年03月
発売日:2020年04月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB