長く坂下俊郎の歌を読んできた。勝手に〈坂下節〉などと名づけて楽しんできたのは、多く妻を詠んだ歌。妻とのやり取り、攻防が洒脱な言葉でいきいきと描かれ、「あるよなあ、こんなこと」と思わずニヤリとしつつ、おいおいこんな歌を作って今夜大丈夫か、と心配したりもする。
わが妻がわかりましたという時の「た」が強ければただ事にあらず
恐る恐る切り出してみたら起きてまで寝言を言わないでネと言われき
まだまだあるのだが、こんな妻の歌をひそかに愛してきた。一度はこの主人公の女性に会ってみたい、きっと魅力的なのだと思わせるのは歌の力だろう。
しかし、今回歌集として読んでみて、ユーモアの歌以外に、こんなにいい歌が多かったのかと改めて気づくことになった。発想の自在さ、当たり前と見逃していたことに気付かされることも多く、いい歌集になったと喜んでいる。・・・永田和宏「帯」より