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秘薬紫雪/風のように

著:竹久夢二
著:末國善己

紙版

内容紹介

矢崎忠一は、最愛の妻を殺しました。

陸軍中尉はなぜ、親友の幼馴染である美しき妻・雪野を殺したのか。
問わず語りに語られる、舞台女優・沢子の流転の半生と異常な愛情。
大正ロマンの旗手による、謎に満ちた中編二作品。挿絵106枚収録。

 どうした訳だろう。彼女(あれ)は、あの晩に限って、今まで一度も見せたことのないような厳然とした顔をして言った。
「あなたは取返(とりかえ)しのつかないことを仰言(おっしゃ)いましたわね。しかしあたしはもう覚悟をきめました。あなたはあたしの良人(おっと)です。さ、どうでも気のすむようになさい」(「秘薬紫雪」より)

 私は一人の不思議な、風のような女の知り合いになった。(…)其日(そのひ)にも私は例の隅の卓(テーブル)で、食後の煙草(たばこ)をふかしていたのです。一人の見知らぬ女が、恰度(ちょうど)私と反対の隅に坐ってじっとこちらを見ているのです。特に注意を惹(ひ)く女でもなかったのですが、一見非常な苦悩を湛(たた)えて、世にもたよりないと言ったようなその眼が、じっと私を瞶(みつめ)ているのです。(「風のように」より)

目次

秘薬紫雪
風のように
解説(末國善己)

著者略歴

著:竹久夢二
(たけひさ・ゆめじ)画家・詩人・デザイナー・作家。1884年岡山県生まれ(本名・茂次郎)。1901年に上京し、翌年、早稲田実業学校に入学。1905年、平民社の機関誌「直言」にコマ絵を発表、その後「平民新聞」にも絵や文章を発表する。翌年には「東京日日新聞」、「女学世界」、「文章世界」などからも依頼を受けるようになり、早稲田実業学校を中退。1909年に初の画集『夢二画集 春の巻』(洛陽堂)を刊行。1914年、日本橋に自身がデザインした小物などを売る「港屋」を開業。以降、画家、詩人、グラフィックデザイナー、翻訳家、小説家として幅広い活躍を続ける。1931年から33年にかけて欧米各国を訪問。1934年、49 歳で逝去。小説作品に、「岬」(1923)、「秘薬紫雪」(1924)、「風のように」(同)、「出帆」(1927)などがある。
著:末國善己
(すえくに・よしみ)文芸評論家。1968年広島県生まれ。編書に『国枝史郎探偵小説全集』、『国枝史郎歴史小説傑作選』、『国枝史郎伝奇短篇小説集成』(全二巻)、『国枝史郎伝奇浪漫小説集成』、『国枝史郎伝奇風俗/怪奇小説集成』、『野村胡堂探偵小説全集』、『野村胡堂伝奇幻想小説集成』、『山本周五郎探偵小説全集』(全六巻+別巻一)、『探偵奇譚 呉田博士《完全版》』、『《完全版》新諸国物語』(全二巻)、『岡本綺堂探偵小説全集』(全二巻)、『戦国女人十一話』、『短篇小説集 軍師の生きざま』、『短篇小説集 軍師の死にざま』、『小説集 黒田官兵衛』、『小説集 竹中半兵衛』、『小説集 真田幸村』(以上作品社)などがある。

ISBN:9784861829420
出版社:作品社
判型:A5
ページ数:232ページ
定価:2400円(本体)
発行年月日:2022年11月
発売日:2022年12月06日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ