はじめに
序 章 医療生協運動への関心
——性的マイノリティの人権運動のかかわりから
第1節 問題の所在
(1)医療生協はどんな組織体なのか
(2)医療・介護サービスとは何か─あるべき社会保障を考える視座として
(3)「思いやり」によって人権が後景に退くのはなぜか
第2節 研究の目的およびアプローチ
第3節 本論文の構成
第1章 医療生協の事業と運動——医療生協論の再整理から
第1節 生活協同組合の位置づけ、生協運動の知見・先行研究の俯瞰から
(1)生協論の検討
(2)生協の特徴——「日本型生協モデル」と発達要因の検討
(3)厚生行政における生協の位置づけの検討
①長倉司郎『消費生活協同組合法逐条解説』
②厚生白書における「生協」の位置づけの変遷
第2節 医療生協の組織的特徴について
(1)先行研究から見出せる医療生協の特徴
①篠崎次男の医療生協論
②日野秀逸の医療生協論
③篠崎次男・日野秀逸の医療生協論の発展形として
(2)医療生協の組織的特徴の再整理
第3節 医療生協をかたちづくるもの——組合員、事業(サービス)、運動
(1)組合員とは何か
(2)事業(サービス)について
(3)運動について
(4)医療生協の組織的特徴から見出せる「事業と運動」の要点——「くらしの協同」と「信頼」
第2章 医療生協の事業と運動の具体的実践からのアプローチ
——尼崎医療生協を例として
第1節 尼崎医療生活協同組合の「事業と運動」の展開
(1)尼崎医療生協はどのように誕生し今日に至ったのか
①民主的医療運動前史期
②民主医療運動期
③医療生協運動期
④歴史的区分から見出せる運動とその成果
第2節 尼崎医療生協運動史から見出せる医療生協運動の特徴とその役割
(1)尼崎医療生協運動史の「組織と運動の理論」からの検討
(2)民主医療運動という視点——健康の自己主権の実現に向けて
(3)民主医療運動から「組合員が主人公の医療生協化」
(4)医療生協運動の役割——人権としての社会保障・社会福祉をとらえ、それら諸制度の補充や代替の視点
第3章 医療生協の事業と運動の先見性とその限界
第1節 生協法人格による「事業と運動」の意義について
(1)生協法による医療事業への疑義
(2)医療生協規制について
(3)当時の徳洲会による医療生協づくりをどう考えるか
第2節 「健康の自己主権」「健康権」確立に向けた事業と運動の意義
(1)「健康の自己主権」から権利の実現を目指す行動をともなう「患者の権利」へ
(2)健康権の整理
第3節 医療・介護サービスの商品化へ対峙する「事業と運動」の限界
(1)医療や介護サービスとは何か——医療や介護サービスの商品化をめぐって
(2)医療・介護サービスを商品化するISO規格——手段が目的化すると「商品化」へ
(3)医療生協の「事業と活動」批判
(4)先見性としての「人権・協同」と限界点としての「共同化」——「共同化」への確信に向けて
第4章 医療生協の事業と運動としての低所得者医療保障
——無料低額診療事業の実践から
第1節 生活困窮者・低所得者の医療保障の現状と課題
(1)生活困窮者・低所得者の定義について
(2)戦後の生活困窮者・低所得者の位置づけについて
第2節 医療生協による低所得者への医療保障——無料低額診療事業をめぐって
(1)低所得者の医療をめぐる現状——一方策としての無料低額診療事業
(2)無料低額診療事業研究について
①無料低額診療事業の出自について
②「制度としての思いやり医療」としての無料低額診療事業
第3節 無料低額診療事業への3つの視点からのアプローチ
(1)〈法体系〉からのアプローチ
①厚生労働白書(厚生白書)における医療費一部負担金の位置づけの変遷
②社会福祉法における無料低額診療事業
③国保法一部負担金減免との関係から
④〈法体系〉からのアプローチの小括
(2)〈理論体系〉からのアプローチ
①社会福祉の補充・代替に関する理論
②社会福祉の補充・代替論における無低診の位置
(3)〈実践体系〉からのアプローチ
(4)3つのアプローチからの論点整理
①〈社会福祉制度の無低診活用〉という局面をどうみるか
②〈社会保障・社会福祉の市場化〉において補充・代替性の性格を持つ無低診をどう捉えるか
第4節 医療生協による無料低額診療事業実践——運動の文脈での「人権としての医療保障の実践」へ
(1)現代日本社会における社会事業の開拓的役割
(2)日本型社会的協同組合の十分条件としての無料低額診療事業の実践という提案
第5章 地域共生社会を「人権・協同・共同化」をもとにつくりかえるために
——対抗軸としての医療生協の事業と運動
第1節 医療生協運動における「人権」について——人権と社会保障の再整理から
(1)「性的マイノリティの人権」から〈人権〉の整理
①性的マイノリティの人権化と生活保護利用者との非人権化
②性的マイノリティ当事者による人権への視座─当事者による多数派への「理解増進」活動から
③人権が「つくりかえられている」という視座の必要性
④性的マイノリティの当事者による〈人権〉再考の必要性
(2)人権と社会保障の「つくりかえ」——戦後日本の社会保障をめぐる変遷から
①「国家責任としての社会保障」から「助け合いとしての社会保障」へ
②人権と社会保障の「つくりかえ」─「つくりかえ」を支える理論の論点整理から
③「つくりかえ」を進行させた新自由主義を検討するうえで見出せたフーコー,ベック理論の論点整理
(3)社会権の再構築に向けた医療生協運動の可能性
①「能力の共同性」としての人権の再定義
②人権運動としての医療生協運動に向けて
第2節 地域共生社会への対峙——医療生協運動における「協同」による対抗から
(1)自助・互助・共助・公助へのプロセスと地域共生社会という方向
(2)地域共生社会への視座——地域福祉の再検討と日本的社会連帯を振り返ることから