錯綜する人と空間
プロレタリア作家の中国像
著:李 雁南
内容紹介
1920年代初頭から日本のプロレタリア作家たちは関東大震災後に実施された治安維持法のため、東京から追い出されたり憲兵に目をつけられたりして日本にいられなくなり、中国、特に満洲に逃亡することが多かった。日本の帝国国家の庇護が及ぶことなく、これらプロレタリア作家は中国の労働者といっしょに働き、社会最下層の生活を身をもって体験し、彼らに階級的連帯感を感じた。
「近代日本文学における中国像」の研究において、近代日本文学によく登場する『水滸伝』や『三国志』にある中国の古代の豪傑でも李白や杜甫のような浪漫的詩人でもなければ、魯迅や郁達夫のような有名な近代中国知識人でもなく、社会の最下層にもがき、戦乱の時代を生き抜き、プロレタリア階級の解放のために奮闘した人たちを、ともに働いたプロレタリア作家たちは日本文学でどう描いたのか。
中国人の筆者が、日本のプロレタリア作家の中国像を解読し、その中国体験を考察したうえで、社会性と階級性をキーワードに、描いた中国体験文学と中国題材文学の原点を明らかにする。
目次
序章 近代日本文学における中国人像
近代日本文学における中国人像/近代日本文学における中国像についての先行研究/本書の論点
第一章 平林たい子と中国
平林たい子の満州体験と初期文学/植民地の他者・無産階級の同士/無視された中国人/闘争に目覚めた労働者/おわりに
第二章 里村欣三と中国
プロレタリア兄弟で薄気味悪い異国人/革命の先輩で無知無謀な民衆/植民対策で敵対する他者/戦乱を生き抜く卑劣者で救済すべき相手/おわりに
第三章 黒島伝治と中国
黒島伝治の中国取材旅行と「中国もの」/『済南』における中国人像/『武装せる市街』における中国人像/『前哨』における日本兵と中国兵/おわりに
第四章 中西伊之助と中国
中西伊之助の満州体験と「中国もの」/『軍閥』における搾取構造/おわりに
第五章 林房雄と中国
「廃都」北京/「東亜の象徴」上海/「理想国家」満州/「失われた都」南京/おわりに
終章 プロレタリア・インターナショナリズム/帝国主義/反戦意識/大東亜主義
解説 広岡守穂(中央大学教授)