ある生物が「ここ」にいて、「あそこ」にいないのはなぜだろうか。現在見る生物の分布はどのようにつくりあげられてきたのだろうか──? この疑問に答えるには、生物の現在の分布、特徴や、その移動の制約となる地理的な条件を知ることが必要だ。また、化石の記録や湖の底に堆積した花粉なども、有力な証拠だ。近年、それらに加え、より直接的で強力な証拠が利用できるようになってきた。その証拠とは、生物自身が体内に持つDNAの遺伝情報。遺伝子工学の普及により、簡便で安価な解析が、野生生物研究においても利用可能になったのだ。こうした興味と技術を背景に、系統地理学は誕生した。当初、生物の移動の歴史を明らかにする博物学的な関心が中心だった系統地理学だが、最近はさまざまな周辺分野と結びつき、新たな展開をはじめつつある。本書では、その日本での胎動とも言える、国内の生物を材料にした研究例を多数収録した。また、研究を始めるにあたって知っておきたい解析手法の概略も紹介。