序章 経済安全保障とは何か
1. 安全保障のための経済的手段
2. 「経済安全保障」概念の曖昧さ
3. 「経済安全保障」概念のインフレ化
4. 経済安全保障ではないもの
5. なぜ「手段」から考えることが有益なのか
6. 類似概念とどこが異なるのか
(1) 経済制裁(economic sanctions)
(2) 経済戦争(economic warfare)
(3) 経済外交(economic diplomacy)
(4) エコノミック・ステイトクラフト(economic statecraft)
(5) 地経学(ゲオエコノミクス geoeconomics)
(6) まとめ
7. 経済安全保障は善か、それとも悪か
8.本書の構成
第1章 経済安全保障の鳥瞰図――9つの戦略
1. 経済安全保障の9つの戦略
(1) シグナリング(signaling)――メッセージの伝達
(2) 強化(strengthening)――パワー(全般的な国力)の補強
(3) 封じ込め(containment)――相手のパワーの弱体化
(4) 強制(coercion)――経済的な損失を利用した操作
(5) 買収(bribe)――経済的な利益を利用した操作
(6) 相殺(counterbalance)――経済的な悪影響の無効化や緩和
(7) 抽出(extraction)――経済的な依存や従属を利用した、資財の調達
(8) モニタリング(monitoring)――経済的な依存関係を利用した、監視と情報収集
(9) 誘導(entrapment)――経済的な依存関係を利用した、心理操作と迎合への誘い
第2章 中国ジレンマ――安全保障では脅威、経済ではパートナー
1. 「経済的関与」の負の遺産
2. CEETSがもたらす4つの懸念
(1) 経済利益の軍事転用
(2) 中国のES能力の向上
(3) 中国フレンドリーな経済ルールがもたらす危険な循環
(4) 対中抑止の失敗による大規模戦争の発生
3. 密接な経済交流が続いた理由
4. 対策はあるのか
(1) 経済的関与(中国との密接な経済交流)の継続
(2) 全面的な経済封じ込めやデカップリング
(3) 部分的あるいは選別的なデカップリング
(4) 米国が参加し、中国が参加しない、被脅威国を中心とする高レベルな多国間自由貿易協定
(5) 軍事的な報復能力の維持
(6) 被脅威国のES抑止力の向上
5. CEETSの悲劇を避けるために
第3章 デカップリングの真実――可能性と限界
はじめに
1. デカップリングの論理と現実
(1) デカップリングの論理
(2) 対中デカップリングの登場
(3) デカップリングの「限界」と「有効性」
2. 選別的なデカップリング
(1) 代案としての部分的デカップリング
(2) 経済分野ごとのデカップリングの現状と可能性
(3) 今後の展望
(4) 中国側のデカップリング誘因
3. 産業政策は有効なのか
4. ガーゼのカーテン
おわりに 149
第4章 TPPは死なず?――安全保障装置としての高レベル多国間FTA
はじめに
1. ガーゼのカーテンを支える2本の柱――選別的デカップリング、高レベルな多国間FTA
(1) 選別的デカップリングの難点
(2) 米国参加型の高レベルな多国間自由貿易協定
2. なぜTPPは有効な安全保障ツールなのか
(1) ソフトな封じ込め――経済利得の軍事転用とES能力の向上を防ぐ
(2) 経済ルールの確立――中国主導の経済秩序の阻止
(3) バランシングの触媒――対中バランシングの活性化と対中抑止の成功
3. 鉄とガーゼ
4. 経済秩序をめぐる攻防
5. 米国は復帰するのか? 中国は加わるのか?
(1) 米国がTPPに復帰する可能性
(2) 中国がTPPに参加する可能性
(3) TPPに米国が復帰せず、中国も参加しない
6. 華麗なるパッチワーク?
(1) TPP以外の経済的な枠組みや協定による代替
(2) EUのCPTPP参加
(3) 中国のESに対する「拒否的抑止」
(4) 中国のESに対する「懲罰的抑止」
おわりに――もしも米国がTPPに戻らなければ
第5章 マネーの長城――人民元の国際化とデジタル化
はじめに
1. マネーと経済安全保障
(1) シグナリング――メッセージの伝達
(2) 強化――経済基盤の補強
(3) 封じ込め――相手国の弱体化や崩壊
(4) 強制――経済的な損失を利用した操作
(5) 買収――経済的な利益を利用した操作
(6) 相殺——自国あるいは安全保障上重要な他国に対する経済的な悪影響の緩和
(7) 抽出――経済的な依存や従属を利用した、資財の調達
(8) モニタリング――経済的な依存関係を利用した、監視と情報収集
(9) 誘導――経済的な依存関係を利用した、心理操作と迎合への誘い
2. 人民元の挑戦
(1) 人民元と経済安全保障
(2) 人民元国際化の歩み
(3) 伸び悩む人民元
3. 人民元の限界と可能性
(1) 支配的な国際通貨になるための条件とは
(2) 「まだらな基軸通貨」(SKC)としての人民元
4. まだらな基軸通貨(SKC)への道
(1) 人民元の意外な魅力
(2) 3つの条件が重なれば
(3) はたして3つの条件は重なるのか
5. デジタル化は、人民元の国際化を促すのか?
(1) e-CNYの歩みと将来像
(2) 経済安全保障上の含意と今後の展開
(3) デジタル人民元特有の魅力とは
(4) 「デジタル人民元そのもの」と「それを支えるデジタル金融インフラ」の違い
おわりに
終章 経済安全保障の含意と未来
1. 本研究の総括
2. 政策上の合意
(1) デカップリングの2つの核心(選別と協調)
(2) 経済ルールや技術標準をめぐる闘争
(3) 経済的な活力の創出
(4) 経済安全保障の罠(必要性と危険性)
(5) デジタル通貨とデジタル金融インフラへの嗅覚
(6) 軍事手段は依然として重要
(7) 経済安全保障のための政府機関と法制度の充実
3. 未来
あとがき